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音楽とコミックのレビューブログ

高木正勝「かがやき」

 

かがやき

かがやき

 

 「おおかみこどもの雨と雪」での仕事で知られる日本の作曲家の2枚組の新作+ワークス集。

もともとは映像作家として名をあげ、音楽家としては知る人ぞ知るエレクトロミュージシャンだった高木正勝。しかし「COIEDA」に収録された「Girls」がCMに使われてからは作曲家としての側面がクローズアップされ、ついには細田守おおかみこどもの雨と雪」という話題のアニメ映画に起用されたのは記憶に新しい。さらに2015年に公開の細田の新作「バケモノの子」でも続投。共作2作目にしてすっかり欠かせない存在に思えるほどだ。2000年代序盤からの活動で数える作品は10を超え、メランコリーなピアノの旋律を聴けば高木正勝だと気付くくらいに、他にはない独自のポジションを掴み取ったといえる。

そんな高木正勝だが、このたび、生まれた頃から住んでいた京都のニュータウンを離れ、京都と兵庫の県境にある合わせて20世帯ほどしかない小さな山村に移住したという。昼間には畑を耕し、音楽生活をするという、「おおかみこども」か!と言いたくなるような生活の中で、今作を作り上げた。

そのなかで、ご近所さんの90歳代のおばあちゃん(堂々のメインボーカリスト!)をはじめとした村の住人や鳥や蝉といった山の動物たちの音声を作品に取り入れている。おばあちゃんとの日々の会話やフィールドワークで拾ってきた自然の音色を取り込み、まるで自らの生活域を絵の具を塗りたけるキャンバスであるかのように芸術制作の場として活かす。そのなかで成熟に向かいつつある高木正勝作曲の楽曲が交じり合い、自然の匂い、息遣い、肌感覚を詰め込んだ「ライブ」アルバムを完成させてみせた。特別な手法を使って意図的に編集するのではなく、それらをあくまで生きているものとして、しかし無理なく取り込んでいることも大きな成果だろう。

デビュー当時はマニトバやフォーテット、ケッテルのような同世代の海外アーティストと呼応するようなフォークトロニカな作風を持ち味にしていたが、近年の作品ではそこからは徐々に距離を置き、孤高の表現にまで辿りついた。時に愛らしい老夫婦のような穏やかな肌触り(「めのふね」)で、また時には笑顔で野を駆けはねる子どものような無邪気さで(「あまみず」「I'm Water」)、それを見守る母のようなおおらかさで(「おおはる」)、あるいは身を切り裂くような激情で(「うたがきⅡ」)、そしてすべてを内包した「生の鼓動」を(「育てなさい 火を熾しなさい 食べなさい 笑いなさい」)!こうした様々な表情で奏でられる鍵盤の旋律が高木正勝の軸になっている。アコースティック演奏による傑作ライブアルバム「Private/Public」をキャリア前半の高木正勝と今に至る高木正勝の分水分として位置づけるとすれば、今作は現時点での極点を目指しながらも、スタジオ録音かコンサート収録かという区分からも解き放たれている。それはもはや、音楽製作の純粋な部分を描き出そうとしているかのようだ。

DISC2はNHKのドラマやジブリのドキュメンタリーで使われた楽曲を纏めたもの。DISC1の濃厚さに比べて過度な期待は禁物だが、「職業作曲家」高木正勝の仕事の質の高さは実感できる。

今作はこれまでも日本の伝承や童話などにも関心をもち、作風にも取り入れてきた高木のひとまずの集大成であり、またリスタートでもある。これを踏まえたこれからの仕事にも大いに期待したい。まずは「バケモノの子」を経て、つぎなる新作を。いやはや、本当に遠くまできたものだ。

 


高木正勝 - 祝 アルバム「かがやき」2014年11月19日発売 / Takagi ...