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音楽とコミックのレビューブログ

新川忠「Paintings of Lights」

 

Paintings of Lights

Paintings of Lights

 

 

東京在住のSSWの10年ぶりの3rdアルバム。

高野寛をはじめとした80年代のポップスを思い起こさせる上品なシンセポップスである。当時のミュージシャンが何千万円という予算を贅沢に使って練り上げたサウンドを今の機材なら自宅録音で出来るようになったということだろうか。しかしながら、サウンドの密度や響きはニューミュージックの成熟期である80年代のサウンドに比べてまったく遜色はない。それは発展した機材のおかげ、というだけではないだろう。情熱的でたゆまぬ推敲と、なによりも心地よい音を選び、組み合わせるセンスのよさが濃密なサウンドを完成させたのだろうと頭が下がる。

ロダンの愛人として知られる悲劇の女性彫刻家をテーマにしたリードトラック「カミーユ・クローデル」をはじめ、その歌詞もまた文学的というより、芸術的なところまで高まっている。直接的な表現は極力用いず、つかみどころのない情景的な言葉が並んでおり、良い意味で耳を通り抜ける清涼な響きが意識されている。

感傷的でありながら、熱を帯びすぎない。淡く切なくも甘い、低熱の情念が作品を包んでいる。遠くで揺れる青白い陽炎のようなつかみどころのない作品のイメージを象徴する「霧の中の城」が本作のなかでも息を呑む出色の出来。フェス向きの踊れるロックやシティポップというキーワードが並ぶ現在の音楽の主流とは外れているかもしれないが、立ち止まってもう一度再生ボタンを押したくなる妖艶な魅力を漂わせた、底が見えない力作。

 


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