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lost&safe Blog

音楽とコミックのレビューブログ

大森靖子「洗脳」

 

洗脳

洗脳

 

センセーショナルな言動で注目を集める女性SSWの3rd。

 

「愛してるなんてつまらないラブレターまじやめてね / 世界はもっと面白いはずでしょ?」

 

素晴らしい。思わず笑ってしまった。2ndでの欝でありたいのか躁でありたいのか、ポップでありたいのかオルタナティブでありたいのかどっちつかずの聴き辛さ(そして今にして思えばそれこそが2ndの魅力だったのだと思うけれど)はこのアルバムでは大きく修正され、全編を通してハイテンションで強烈なJ-POPに仕上がっている。

今作はとにかくメロディが素晴らしい。まるでアニソンのようにキャッチーなオープナーで心に掴みかかる「絶対絶望絶好調」、売り出し中のアイドルをコーラスに迎えた「イミテーションガール」、やくしまるえつこのアンニュイな言語感覚と歌唱を輸入して噛み砕いた「ナナちゃんの再生講座」「きすみぃきるみぃ」、そしてメジャー1stシングルの「きゅるきゅる」などは現在のガールズポップの王道を威風堂々と突き抜けている。それだけではなく、プリンセスプリンセスのようなぶりっ子ロック「子供じゃないもん17」と昭和のアイドルが歌うバラードのような「水色の呪い」はあまりにも露骨過ぎる。さらに終盤はハードロック調のうなるギターとガールズポップがスキゾに交差する「私は面白い絶対面白いたぶん」、ピアノ調の美しいバラードと小室哲哉が絡まりあう「焼肉デート」ともはや収拾がつかない。このあたりの自由度の高さと皮肉の効き方は大槻ケンヂのユーモアを連想した。

全編を通して飽きさせないバラエティ豊かな構成。それでいて身体になじむメロディの連打。今作で大森はヒットチャートに載っている50曲を聴き、そのなかで使われているメソッドを自己流で解体して検討したとのこと。そうした努力が見事に実を結んだのが今作であり、それでいて大森靖子らしいショッキングな言語感覚とも違和感なく噛み合い、皮肉も効かせるクレバーさも備えている。その結晶が本作のハイライトたる「ノスタルジックJ-POP」だ。

 

「新曲いいね踊れないけど / 優しくなったり悲しくなったりしちゃうよね」

「そんな歌くらいでお天気くらいで / 優しくなったり悲しくなったりしないでよ」

 

大森靖子を消費するのはきっと楽しい。彼女のセンセーショナルで破滅的な言動は目を引くし、エモーショナルな作風はきっと心に突き刺さる。泣きたいなら泣けばいい。しかし、彼女はそんなありふれた消費のもっと向こう側を見ている。自らを取り巻く全てを巻き込んで、アンダーグラウンドからポピュラーカルチャーの中心へ。荒井由美から脈々と受け継がれてきた「時代を象徴する歌姫」の最新モデルは、大学のキャンパスでも芸能事務所でもアメリカンスクールからでもなく、高円寺の高架下のライブハウスから現れた。痛快なるメジャー1stフルアルバム。

 


大森靖子「絶対絶望絶好調」MusicClip - YouTube