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音楽とコミックのレビューブログ

思い出野郎Aチーム「Weekend Soul Band」

 

WEEKEND SOUL BAND

WEEKEND SOUL BAND

 

 

多摩美術大学出身の7人組ソウルバンドの1st。

ファンク。しかし、彼らはブラック・メサイアではない。彼らが鳴らすのは、ウィークデイとウィークエンドを行き来する人々の享楽や孤独のための音楽だ。

ここ数年の傾向として「黄色が黒い音楽を演ずること」はどこか滑稽だという、自虐的な笑いを持って受け入れられていたように思える。夜のきらめきを連想させるたおやかなイントロのあとに流れる「週末はソウルバンド」を聴くと、そうした、引き受ける必要などないシニカルさを引き受けてしまっているように聴こえるかもしれない。「貧乏なのにCDと酒を買う」「たまのデートはタワーかユニオン」な売れないソウルバンドのメンバーを彼氏に持つ彼女をユーモラスに描いている「週末はソウルバンド」。果たして誰が本気で聞いているのかも分からないようなバンドを続ける青年を、「続けてもいいから嘘は歌わないで」と包むこむ女性の視線すら、もはやサブカルか皮肉にしか聴こえなくなってしまったほど、こちらの耳は随分惨めになってしまっていた。

そんな思い出野郎Aチームが鳴らすのは今夜もイケイケで、でもちょっとお茶目で洒落っ気溢れるソウルミュージック。彼らの音楽を聴いているうちに、やがて酒は回り、リズムは夜の帳に溶けていく。「東京迷子」のメロウな響きはそんな酩酊の感覚を思い起こさせるし、「グダグダパーティー」は後半から終盤に向かうための上手いチルアウトになっているよくできたミドルバラードだ。アルバム後半になると、当初身構えていた自虐的な感覚はすっかり消えている。それだけでもこのアルバムは魅力的で特別に思える。これがパーティだとして、例えばお客としてやってきた青年が意を決して連れてきた気になる女の子も楽しそうで、いやはや何よりといったところだろう。

しかし、終盤、リードトラックたる「Time Is Over」でこのアルバムの表情は一変する。

 

「朝までパーティーを開いておくれよ / あの娘がいないこんな夜は / 踊り続けてやり過ごすんだ / 頭がいかれちまう長い夜を」

 

おあつらえ向きの小洒落た服に、おぼつかないステップを重ねて踊るカップルの隣には、孤独の夜に耐え切れず、音楽と酩酊の海に溺れるため、いまにも泣きそうな顔でやってきた男がいる。そう、ウィークエンドダンスホールには多数の個人がいて、無数の物語があるのだ。いつもの仲間に会いに来たフリークども。酒を呑める年齢になり、初めてのクラブに胸を躍らせる青年までの狭間にいる少年。結ばれたばかりの愛を確かめ合うカップル。その隣には、愛を喪った男。そして、舞台の上にはしゃがれ声のウィークエンド・ソウル・バンド。

 

「Time Is Over」

 

かくして全ては呑みこまれていく。思い出野郎Aチームはブラック・メサイアではない。戦いの凱歌を歌わない。その代わりに、そこにあるのは物語の花束だ。それはあなたの物語であり、そしてあなたが連れてきた女の子の物語であり、隣で泣いている見ず知らずの男の物語である。星の数ほどではないけれど、それでもダンスホールのあらゆる場所に咲いた花束を抱いて踊る、夜の祝福である。

しかし、いつもの仲間も、恋人も、ダンスホールにいる誰もが夜を諦める時間が来た。孤独はやがて癒されるだろうし、今日好きになった彼のこともしばらくすると幻滅するに違いない。仲間だと思ってた奴は実は嫌な奴だし、新しい音楽なんて知れば知るほどそのすべてが嫌になっていくものだ。ダンスホールから出るというのはそういうことなのである。週末と日常は決して離れられない表裏の関係だ。週末に生きるのだとしたら、ならば彼らはそれぞれの日常に帰らなければならない。それはあたかも呪いのように強固な現実だ。

そしてアルバムは終わりを迎える。それぞれが朝のことを思う。最後の1曲は「side-B」。このアルバムのなかで最も繊細で、美しいイントロを持つラストナンバーである。

 

「レコードを裏返してもう一度音楽を鳴らそう / レコードを裏返して君と踊り続けよう / レコードを裏返して朝までパーティを / レコードを裏返してダンスを再開しよう」

「レコードを裏返して / 針を落とそう」

 

ああ、もう言葉にならない。

愛は、享楽は、ドキドキは、酩酊は続く。たとえそれが5分間の夢でも、幻でも、機械仕掛けの神のご都合でも、音楽は続くのだ。ソウルミュージック。全ての祈りのための魂の音楽。そのときになって、ようやく気付くだろう。

このボーカル、歌下手じゃね?

 


思い出野郎Aチーム ”TIME IS OVER” (Official Music Video) - YouTube