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音楽とコミックのレビューブログ

Kirinji「11」

 

11(初回限定盤)(DVD付)

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 キリンジの新作。

兄弟ユニットとして15年以上の間、日本のポップミュージックの最前線を走ってきた彼らだが、弟の泰行が脱退。兄の高樹はキリンジの作品に長年参加してきたメンバーなどを呼び込み、昨年の夏ごろから新たにバンド形式でキリンジを再スタートさせた……というのは各メディアで報道されていたので多くの人が知っているところ。そうした動きのなかでの11作目。2-1+5。レディオヘッドの曲を思い出すな。

15年以上に渡って音楽的パートナーだった相手を失うということは恐怖のはずで、「背中に喪失感を煤けさせる」作品になってもおかしくないのだけれど、今作は「新たな旅立ちの喜び」と「現在のメンバーでの創作で出来ること」を重点に置いた、幸福感に満ち溢れた作品になっている。前者だったらそれこそ一人でやればいいわけで、それよりも大人が寄り集まった大所帯になったからこそ出来ることを目指そうという意思を感じられるのは非常に好感が持てる。

全体の印象としては、女性SSWからベテランスティールパン奏者といったそれぞれの出自と素養、音楽的嗜好を混ぜこんだチャンポン的オリエンタルロック。オープナーにしてリードトラックの「進水式」はリスタートへの感傷に満ち溢れている特別なナンバーだが、2曲目以降はそれを早々に切り上げ、バラエティ豊かな楽曲が続いていく。

軽快な縦ノリのリズムに乗せて、誰かと誰かが恋に落ちる様をスライド写真のように描くキラキラとしたナンバー「だれかさんとだれかさんが」は、このバンドのあらたなスタンダードを予感させる。アルバム後半のオープニングを飾る「虹を創ろう」も佳曲。「虫を死なせたことなんてもう忘れてしまったろう」「蛇が怖かったことなんてもう忘れてしまったろう」と従来のキリンジらしい愛嬌のある皮肉を入れながら、「水しぶき」や「ソーダの渦」、「雨上がり」といった爽やかなモチーフと女性メンバー二人によるバックコーラスを組合わせ、フレッシュな印象に仕上げている。

また、リーダーにしてソングライターの高樹だけでなくメンバーがそれぞれバランスよくボーカルをとっているのも特徴。「真昼のメンズ館、俺以外はゲイのカップル」というハッとするようなフレーズが印象的なラテン風エレクトロポップ「ONNA DARAKE!」はDr楠の乾いたボーカルが居場所のない男たちのペーソスをユーモラスに表現しているし、コトリンゴと弓木がボーカルをとる「クリスマスソングをひとつ」はクリスマスソングでありながらどこかミステリアスな響きで不思議な魅力をもつ。さらに、ここで挙げなかった他のトラックもこれらの楽曲と同じくらい、あるいはそれ以上の聴き応えがあり、充実の内容である。

最後は「進水式」と同じく、再出発への感傷を込めた「心晴れ晴れ」でアルバムは終わる。「人は自由になるんだ/心からそう願うなら」「雨ざらしの夜/捩じれたブランコ/鎖を解こう/錆びつくまえに」というフレーズにはどこか逆説的に喪失感と現在に至るまでの苦難を覗かせるものの、ポジティブな印象は崩さない。都市生活者の孤独や狂おしい焦燥を描いた濃厚なキリンジから、そのユーモアを受け継ぎながら開いたバンドワゴネスクへ。弟の脱退にショックを受けたオールドファンも、今回のニュースをきっかけに久々に興味を持ったというリスナーも満足させる、「心晴れ晴れ」なキックオフ。

 


KIRINJI - 進水式 - YouTube