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lost&safe Blog

音楽とコミックのレビューブログ

古川本舗「Hail Against The Barn Door」

 

Hail against the barn door

Hail against the barn door

 

 

コンポーザーの古川を中心としたユニットの4th。4年で4枚のアルバムとはなかなか旺盛な創作意欲。

古川は売れっ子ボカロPでニコニコ動画出身。彼のリスナーもそのころからの付き合いという人が多いよう。しかし、個人的な出会いは前作の「SOUP」の楽曲をたまたまyoutubeで耳にしたからで、彼がボーカロイド界隈出身だと知ったのは実はだいぶ後だった。そのせいか例えばTSUTAYAでCDを探すのが結構大変だった。ボカロの棚にあるとは…。

もともとはフォークトロニカ調の泣きメロな楽曲を武器としており、3rd以降はトラヴィスやスノウ・パトロールといったUKロック叙情派のような音作りになっている。ノリのよさ重視の近頃の日本語ロックの中でもスノッブ臭もなくずいぶんと骨太な印象だ。

これは前作でボーカルをキクチリョウタに固定したのがよかったのだろう。2ndまでの作品は楽曲ごとにボーカルが違うことが作品全体に散漫な印象を与えていた。しかし、少年のようにキュートながら、どう歌ってもどこか憂いを帯びた枯れた響きになるキクチの歌声が古川の楽曲に合致した。本作でもこのボーカルが作品の軸のひとつになっている。

また、今作はキクチに加え、これまでに古川の作品にも何度か参加した女性ボーカルのちびたを起用。古川本人もマイクを取り、男性2人に女性1人のトリプルボーカル制をとっている。このちびたと古川のボーカルもやはりハスキーで湿っている。ちびたの熱を帯びすぎない歌声はspangle call lilli lineの大坪加奈に似ているのだが、古川は過去の作品でまさにその大坪をボーカルに迎えたことがある。このあたりは一貫したサウンドへの嗜好といったところか。

さらに今作からはボーカルだけではなく、演奏メンバーも固定し、ライブもこれまでにないくらい回数を重ねている。「古川の個人企画からユニット/バンドサウンドへの本格的な移行」というのが作品の大きなテーマとなっており、それが効を奏してか、前作までに比べて非常に良い意味でサウンドが幅広くなっている。ダンスミュージック調の「ライフタイムサウンドトラック」やレゲエのリズムの「ナイトクルージン」はスキマスイッチ秦基博といった大文字のJ-POPに肉薄した力作。楽曲そのものの良さももちろんだが、先述のキクチのボーカルの上品な響きや、リズム隊のBa二村とDr森の豊富な経験が、一歩間違えるだけで安っぽくなってしまう繊細な楽曲を支えている。一方で「情熱と残響」や「comma white」のような前作までの強みを活かした泣きメロ楽曲もきっちりと取り揃えており、ここは古川&vo.ちびたの面目躍如といったところだろう。そして、オープナーの「21g」とラストトラックの「バンドワゴン」はキクチ、ちびた、古川のボーカルが絡み合う威風堂々、珠玉のロックバラードだ。

バンドサウンドへの移行で前作までに比べて開かれた印象の今作。しかし、このアルバムでは決してポジティブなイメージがあるとはいえない「夜」という言葉が印象的に使われる。特に「ナイトクルージン」と「バンドワゴン」はこの夜というモチーフが印象的だ。

 

「眠らないあの夜へ/朝が来ない夜へ/夜はたぶんこうやって明けていくのがいい」

「僕らは夜を抜けたわけじゃない/答えまだ知らない」

 

ここでは多くを書かないが、このアルバムに至るまでに古川は小さくない挫折を経てきた。そしてそれは古川だけでなく、バンドメンバーにもいえる。そんな彼らは、はっきりと「やがて夜は明ける」と言い切ることは出来ないが、その代わりに「夜から夜へ、夜を受け入れながら進んでいくことはできる」という歌を作れるようになった。

 

「ただ僕らは夜の呼ぶほうへ/朝が来ない夜のほうへ」

 

朝を待つのはもうやめた。そこには悩みや甘えを振りほどいて生まれた力強さがある。今作最大の成果とはそうした力強いうたを生みだす「バンドワゴネスク」にこそある。グッドミュージック!

 


古川本舗 "21g" (Official Music Video) - YouTube