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lost&safe Blog

音楽とコミックのレビューブログ

【2016/03】MUSIC

いよいよ2016年も本格的に動き出してきたなーと思わせる大豊作の3月でした。

 

 ・ IO/Soul Long

Soul Long

Soul Long

 

世田谷区のヒップホップクルー「KANDYTOWN」の中心ラッパーの1stソロ。

80年代から90年代の洒脱な空気を纏いつつ、シティポップやネオソウルをサンプリングするトラックは実に現代的。そして自らが住む街を架空の都市「KANDYTOWN」と命名するコンセプチュアルな言語センスはSFの匂いも漂わせる。リリックやラップに関しても、従来の日本のヒップホップの背後にあった「対英米」、ないしは「対メジャー」といったテーマも本作からは解き放たれている。その代わりに本作に込められているのは、フィクションとリアルの隙間を悠々と行き来する「今を生きるための」想像力。2016年の東京(郊外)の若者の生活を淡々と、しかし熱量をもって描くIOはまさに新世代の旗手だ。

また、KANDYTOWNのもう一人の重要人物、故YUSHIへの想いが本作をより感傷的でパーソナルで特別な作品にしている。彼が元ズットズレテルズのフロントマンであり、ロックンロール・マナーへの献身者ともいえるOKAMOTO'Sと道を別つ形で、より時代に即した想像力を持つクルーを組み立て、その先に本作が生まれたのは重要な事実であろう。

 

ASA-CHANG&巡礼 / まほう

まほう

まほう

 

メンバーを一新した7年ぶり新作。

代表曲「花」で見られたおどろおどろしいイメージ、あるいは「ボーカルチョップ」の手法を有効に使った巡礼のサウンドからは肉体を切り刻む無機質な冷たさこどに独自のメランコリーが生まれていたけれども、新メンバーにバイオリンとサックスという温もりを感じさせるパートを迎えての本作は、その手法を(例えばThe Booksなどがそうしていたように)有機的な方向にシフトさせている。

白眉はリードトラックである「告白」だ。旧知の映像作家の波乱に満ちた半生に寄り添う穏やかなサウンドは本作のモードを象徴している。「行間に花ひとつ」における故椎名もたの朴訥なボーカルとメンバーの演奏も本作の流れの中では特異ながらエモーショナル。このほか映画や企画盤への提供曲のリアレンジが多く収録されているのも、過去と現在のモードを繋ぐという意味合いが強い。7年の時間とダイナミックな変化が生んだ、愛らしい佳作。

 

Ytamo / Mi Wo

・Anna Meredith / Varmints 

Mi Wo

Mi Wo

 

 

Varmints

Varmints

 

それぞれ、TMTとピッチフォークで高評価を獲得した女性電子音楽家の最新作。出身が日本と英国で、片やオールタイチらとともにオルタナティブな活動をみせ、片やBBCのオーケストラ出身という血統書付き。そんな女性演奏家二人が、フォークトロニカでもヴェイパーウェイブでもなく、根底にブライアン・イーノやドイツのプログレッシブな電子音楽の感触を漂わせながら米国の二大レビューサイトで同時多発的に浮かび上がるのは偶然にしても興味深い。辛口でエクスペリメンタルな音作りに、ときおり美しいロマンシズムを染みのようににじませるという作りも似ており、ともに完成度が高い。

YTAMO / Human Ocean on Vimeo



・Bill Laurance / Aftersun

Aftersun

Aftersun

 

この男の創作意欲は尽きることはないのか。スナーキーパピーが誇るキーボードユニットの屋台骨の三年連続のソロ作。オーケストレーションを取り入れ、さらにワールドミュージック化するスナーキーパピーに対して、本作は「グラウンド・アップ」や「テル・マイ・フレンド」の時代に回帰する精鋭メンバーによる濃厚なフュージョン。スナーキー・パピー首領、マイケル・リーグ指揮による引き締まったアレンジと、ビル・ローレンスの叙情的なピアノの味わいはさすがの一言。

 

・ Daniel Zamir / Forth & Back

Forth & Back

Forth & Back

 

イスラエルの名物サックス奏者による2015年夏録音作。情熱的でありながらクールな佇まい。オリエンタルでありながら都会的。エクスペリメンタルでありながら人懐っこい。相反する要素が当たり前に共存する特異なバランス感覚が音楽産業の中心地から外れながらも、世界中を見回しても類を見ないオリジナルな立ち位置を獲得したイスラエル・ジャズの蓄積だろうか。本作もこの独特のバランス感覚のなかで成り立つ叙情派ジャズの2016年の極点。

 

Esperanza Spaulding / Emily's D+Evolution

Emily's D+Evolution(deluxe)

Emily's D+Evolution(deluxe)

 

やはり最大の注目はトニー・ヴィスコンティのプロデュースワーク…と言いたいところではあるが、参加といってもアレンジメントの最後の段階での助言程度のものだったとのことで、本作の肝はやはりエスペランサ本人のメタモルフォーゼだろう。「チェンバー・ミュージック・ソサエティ」も「レディオ・ミュージック・ソサエティ」も冒険的な作品ではあったものの、本作はもはや自身がジャズであることをかなぐり捨て、気心の知れたトリオ構成で、ジャンル分け不可の得体の知れない音楽を目指している。ソウルともプログレともいえない特異のサウンドに貢献したのはマシュー・スティーブンスの浮遊感のあるギター。ドラム偏重時代において、ベースの音量に厚みを持たせることでサウンドに重量感をもたせたトニー・ヴィスコンティの閃きもさすがの一言。

 

Underworld / Barbara Barbara, we face a shining future

Barbara Barbara, we face a shining future

Barbara Barbara, we face a shining future

 

 このアンダーワールドらしくなさよ。一曲目はビッグビートだし、アルバムを進めた先に感じるのはもはやクラフトワークアシュラテンプル。個人的にはもうアシュラテンプルでいいんじゃないかな?と思っているのだけれども、この人たちも大概移り気だから…。それでも「ハンドレッド・デイズ・オフ」以降では一番いい作品なんじゃないだろうか。

 

あらかじめ決められた恋人たちへ / after dance/before sunrise

after dance/before sunrise

after dance/before sunrise

 

1-6曲目までがafter dance、7-12曲目までがbefore sunriseとコンセプト分けされた本作。初期のオルタナティブ・ダブと中期以降のエレクトロ化とあら恋を彩ってきたサウンドの融合を思わせる本作は集大成的。しかし、一つの楽曲のなかにそれが詰め込まれているかというとそういうわけではなく、一つのアルバムのなかにごった煮しているというのが近いか。少なくともアルバムをふたつに分けたコンセプトは見えづらく、毛色の違う楽曲群もアルバム全体で聞くとギリギリでまとまってはいるが散漫スレスレ。とはいえ、ひとつひとつの楽曲の仕上がりは良く出来ており、曽我部恵一をボーカルに迎えたエレクトロポップ「gone」のメランコリアやアルバムの最後を飾る「月下」の壮大さは特に印象に残る。正直な気持ちをいうと、このバンドに関してはコンセプトよりも熱量を…。