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lost&safe Blog

音楽とコミックのレビューブログ

【2016/03】COMIC

2016 comic

年間ベスト級が立て続け。今月は記事を二つに分けて書きます。

 

・山うた / 兎が2匹

兎が二匹 1 (BUNCH COMICS)

兎が二匹 1 (BUNCH COMICS)

 

不老不死の女性とその共同生活者の青年の悲恋をその結末から先に描き、再度出会いから遡るというテクニカルな構成のネット発の一作。

音楽で例えるならメロの強い和モノポストロックという感覚だろうか。それを大々的に口にするか、内に秘めるかはともかくとして、「リリカルな切なさ」や「甘い痛み」を求める回路はありがちに多くの人に備わっている。本作は大胆な構成やかわいらしくも淡く枯れた表現でそんな需要を高性能に刺激する。非現実的な設定と唐突な展開が読者を置いてけぼりに飛躍する記号的な第1話で悲劇を突きつけ、2話以降で腰を添えてその背景に迫っていくという構成からは「死別の悲しみ」や「悲劇的であること」を作者と読者が思考停止で前提共有してしまうナルシシズムや陶酔も感じさせる。

しかし、本作はその事実をあらかじめ共有した上で、ねじれた生の中にいる主役二人にとって、かつて確実に寄り添っていたささやかな幸せの景色へと逆行することで、やはりこの物語が悲劇であることへと深く潜っていく。繊細な絵柄ながらコマの使い方がダイナミックで、広島弁のセンシティブなセリフ回しや、主人公の2人が寄り添って過ごす団地やアパートといった昭和の風景が徐々に寂びれ始める平成初期から中盤を思わせる風景も功を奏してセピアな甘美さが上滑りしていない。「失われた/失われていくなにかを想う」というテーマの幹の太さと、物語の構造から登場人物の生活環境にまで切なさを隙なくまぶす気の細やかさが本作を凡庸な「切ない作品」から一歩踏み出したものにしているのではないだろうか。なによりも、本作には作者がこの物語の落とし所をどこに設置するのかを見届けたいと思わせる野心的な筆力がある。危うく、しかし魅力的な年間ベスト候補。

 

この作品をBGMにしてました。久しぶりに聴いたなあ。

 

・横山旬 / 変身!

変身! 1巻 (ビームコミックス)

変身! 1巻 (ビームコミックス)

 

生物から無機質までなんにでも変身できる能力を持つ少年ヒデくんと同い年の少女マリちゃんの小学生時代の出会いから、彼らの思春期の成長を描くホームドラマ風現代SF。

祖母しか肉親がおらず、他者と自分が違うことからどこか塞ぎ込み気味な(完全に塞ぎ込んでいるというわけではないバランス感覚がまた見事でございまして)少年と迷惑な好奇心でその壁を軽々と越えていくブルドーザーのようにアグレッシブな少女。彼らは中学生になり、変身能力という他者にはない魔力を持つ男の子は人並みに性欲に目覚めるし、神童と呼ばれた女の子は子ども特有の無軌道さを失う。変身能力の設定が出オチではなく、登場人物の加齢や変化に合わせてテーマを変えて、その上にSF設定を乗せていくという巧みなストーリーテリングに目を見張る。女子の水着を見るためにバッタに変身したはいいものの、メスのバッタに欲情してしまって思わず童貞を捨ててしまったり、幼なじみに彼氏ができた一件に動揺して巨大建築物になってしまったりと変身能力の使い方もどこか情けなくて微笑ましい。バトル展開や世界を左右する出来事に使われたりなどということもなく、主人公の暮らす範囲で、子どもたちの心の機微という重大事に根ざして寄り添っている。コミカルでぶっきらぼうでありながら、二人を取り巻く日常が彼らにとってかけがえのないものであることも描けている。

その画力もまさに90年代から00年代を経てマニア誌で培われてきた作風の集大成を感じさせる。黒田硫黄の技巧や松本大洋の力感の両方を思わせながら、キャッチーにリファインされた絵柄は、恋とも家族ともとれない絆で結ばれた2人の姿をキュートに追いかけていく。作品に渦巻くパワフルな生命力におもわず笑みがこぼれる推薦作。

 

・池辺葵 / プリンセスメゾン 

プリンセスメゾン 2 (ビッグコミックス)

プリンセスメゾン 2 (ビッグコミックス)

 

見落としていた一作。帯や広告では居酒屋店員がマンション物件を探すという設定の面白さが推されがちだけれども、絵柄の可愛さも相まって、マンションを売るほうと買うほうがクライアントの関係を越えて友人関係や気になる異性になっていくゆるいつながりが味わい深い。「女性と家と生活」というテーマはむしろ本編から少しばかり離れる掌編に色濃く反映されており、そちらには宣伝通りの侘び寂びが感じられる。これも落とし所をどうするんだろうと思うけれど…。

 

沙村広明 / 波よ聞いてくれ

昨年度のベストはこの2巻からが本番。血は流れないけれども、主人公の怒りは彼女を取り巻く理不尽に、そして読者に牙を剥いて襲いかかる。第1章のクライマックスを飾るラジオドラマの恍惚なまでに暴力的な快感よ。まさに「新しい戦争を始めよう」。

 

■ その他

 

・茜田千 / さらば佳き日

さらば、佳き日 (1) (it COMICS)

さらば、佳き日 (1) (it COMICS)

 

・優 / 5時間目の戦争 

五時間目の戦争 (3) (カドカワコミックス・エース)

五時間目の戦争 (3) (カドカワコミックス・エース)

 

 ・真造圭悟 / トーキョーエイリアンブラザーズ

トーキョーエイリアンブラザーズ 1 (ビッグコミックス)

トーキョーエイリアンブラザーズ 1 (ビッグコミックス)

 

 ・沼駿 / 左門くんはサモナー

左門くんはサモナー 2 (ジャンプコミックス)

左門くんはサモナー 2 (ジャンプコミックス)

 

・ペトス / 亜人ちゃんは語りたい

 

継続して読んでたり、新刊で続きが面白くなればじっくり読み返したいなと思ってる作品群。「僕だけがいない街」 なんかもアニメを踏まえた上で原作をもう一度ちゃんと読み返したいなー。