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lost&safe Blog

音楽とコミックのレビューブログ

【2016/02】MUSIC & COMICS & OTHERS

「2015年はゆるやかに五月雨式にこびりついていたウェットなゼロ年代が洗い落とされて、10年代のドライな肌感覚が遂に表面化した」という認識だったのだけれども、それは20年近くポピュラーカルチャーを定義してきた枠組みから、まだ名前も付けられていない新しい枠組みを切り開く時期なのかなと考えている。一方で、どれだけ革新的なことが生まれても、そこに簡単に追いついてくるのが、(ときにそれは「サブカル」や「自意識」と呼ばれる、)20年もの時間をかけて組み立てられた強固なシステムでもある。ウェットになりすぎることは「幼さ」や「スカム」を不用意に肯定することにつながるし、ドライになりすぎることは…。さて、どうなんでしょう。

 

【MUSIC】

agraph / the shader 

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 本名義での5年ぶり新作。アレンジにAFXやアルカに関わったマット・コルトンを起用して時代のビート感覚を取り入れた本作は、これまでのキラキラとしたハウス・サウンド・クリエイターの印象を覆す、美しくも大胆なダークアンビエントの極点に。膨大な数のトラックを作成し、アルバムに収録されなかったトラックも各楽曲のパーツに流用、1曲200アレンジと気の遠くなるような微調整を5年間も繰り返し、聴くたびに発見のある重厚な音世界を構築。そんなディープでタイムレスなアンビエントとマット・コルトンの鋭角な世界最先端ビートを融合させた本作は、紛れもなく電子音楽の未知の領域を拡張。円熟の重みと再デビューともいえる瑞々しさを両立させた、本年度のトップランナーを独走する傑作エレクトロニクス。


agraph - greyscale (video edit)

 

・ King / We Are King

We Are King

We Are King

 

 プリンスが前座に起用し、エリカ・バドゥが「2029年の音楽だ!」と絶賛する女性三人組ボーカルグループの1st。クインシー・ジョーンズコクトー・ツインズという、どうやってこれが線で繋がるのか頭を抱えたくなる2組をフェイバリットに挙げる彼女たちのサウンドは、ハイエイタス・カイヨーテ以降を思わせるエキセントリックな響きを感じさせながらも、ずしりとずしりと低音が迫るディープな構築。ネオソウル隆盛時代の針をさらに進めるハイクオリティな一手。


KING - The Greatest

 

・ Snarky Puppy / Family Dinner vol2

ファミリー・ディナー vol. 2

ファミリー・ディナー vol. 2

  • アーティスト: スナーキー・パピー,ベッカ・スティーヴンス,スサーナ・バカ,クリス・ターナー,サリフ・ケイタ,ローラ・マヴーラ,ジェイコブ・コリアー,ノアー,デヴィッド・クロスビー,ナイジェル・ホール,ヴェーセン
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル ミュージック
  • 発売日: 2016/02/12
  • メディア: CD
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テキサス出身、NYを拠点に活躍する大所帯ジャム・バンドのグラミー受賞作の続編となるボーカルアルバム。今年のグラミーでもウィナーになるなど、アメリカでは確固たる地位を獲得しつつも、成長を止めない彼ら。本作はここ数作で少しずつ取り入れたワールドミュージックオーケストレーションの影響を一気に解放。ポピュラーミュージック最重要地帯、西アフリカの奔放なリズムと、人種やサウンドの坩堝にありながらも都会的な凜とした態度を崩さないNYのクールネスを折衷した本作は、集大成ともいえる大作に。ベッカ・スティーブンス参加の1曲目から格別。


Snarky Puppy feat. Becca Stevens & Väsen - I Asked (Family Dinner - Volume Two)

 

FenneszMahler Remixed

Mahler Remixed [12 inch Analog]

Mahler Remixed [12 inch Analog]

 

 2014年にリリースされた企画アルバムの再リリース盤。2011年にウィーンで敢行された「電子音楽マーラーの融合」を狙ったプロジェクト・ライブの録音盤。クラシックの巨人、マーラーの胸が引き裂かれるようなスコアを細切れのパーツにして再構築して、フェネス特有の柔らかなノイズでパッケージ。フェネスが組み上げた人肌の温もりとロマン派の悲しげな冷たさを折衷する全身に染み渡るオリジナルな響きは、ウィーンから遠く離れた日本のagraphのダークアンビエントとも遠からず呼応。ノイズの革新者の面目躍如ともいえる歓喜の再発。


01 Fennesz - Mahler Remix 1 (Live) [Touch]

 

・ Avishai Cohen / Into The Silence 

Into The Silence

Into The Silence

 

イスラエルのトランペット奏者にして、コーエン三兄妹の長兄のECMデビュー作。三兄妹の紅一点、アナの昨年度作も奔放にして繊細な名盤だったのですが、最愛の父の死が色濃く影響した本作は、ECM特有の幽玄な音響に包まれた広がりのあるトランペットが物悲しくも優しく身体に響く。今JAZZらしい新しさには欠くものの、ヨナタン・アヴィシャイの涼しげなピアノも最良のサポートとして機能するECM作品らしい儚さと深みを両立する力作。


Avishai Cohen (tp) – Short Film by Charlie Mysak

 

・蓮沼執太 / メロディーズ

メロディーズ

メロディーズ

 

気鋭の電子音楽家の「ボーカルアルバム」。フォークトロニカの影響下で日常の延長線上と誇大妄想的な世界観を繋ぐエレクトロ構築で名を挙げた彼だけれども、ここしばらくはそのサウンドを生演奏で再現し、生命力を吹き込むタームに入っている。電子音楽時代の集大成的4枚組「CC OO」から新たなチャプターを告げる傑作オーケストレーション「時は奏でる」と踏み込んだ後、遂に本格的にボーカルに挑んだ本作。しかし、それにしても本作はあまりにも素直に「優良なシンガーソングライター」のマナーに則りすぎていて、丁寧に仕上げたことは伝わりつつ、抑えて言えば魅力のとらえどころがない作品になっている。(電子音楽時代中盤以降にその背中をつつかれていた)マンネリズムよりは新しい表現様式を、ということなのだろうけども、そもそも本作で提示した様式自体に新しさを覚えない。これはもう「優れたシンガーソングライター」というジャンルへのいたって個人的な相性の悪さなのだろうか。


蓮沼執太『メロディーズ』MV「RAW TOWN」

 

 【COMIC】

・伊奈めぐみ / 将棋の渡辺くん 

将棋の渡辺くん(1) (ワイドKC 週刊少年マガジン)

将棋の渡辺くん(1) (ワイドKC 週刊少年マガジン)

 

今月は魅力的な新作が少なく、レビューするものにも困る有様でしたが、本作はまさに救世主。羽生善治に匹敵する最強棋士、「竜王渡辺明ですが、その妻、伊奈めぐみの目線から見た「ボンクラで可愛い旦那」渡辺明の魅力がくすぐったく描かれている。目を見張るのは、漫画家が本職ではないとはとてもじゃないが思えない優れた技量。これで人間なるものがわかる!みたいな深みがあるわけではないけれど、見えない側面にも常に面白さは隠れているという味わいを受け取れる良質な生活マンガ。誰も傷つかない感じがいいよね。

 

・堀越公平 / 僕のヒーローアカデミア

僕のヒーローアカデミア 7巻 ドラマCD同梱版 (ジャンプコミックス)

僕のヒーローアカデミア 7巻 ドラマCD同梱版 (ジャンプコミックス)

 

全巻高次元でハガレンレベルの高値安定。かっちゃんのオリジンはまじで心の底からどうでもいいけど、飯田くんのキャラは味があってよい。