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音楽とコミックのレビューブログ

【2016/01】MUSIC & COMICS & OTHERS

新年明けましておめでとうございます。

最近はあんまり更新できていませんが、今後は備忘録程度に今月買ったCDやコミックで印象に残ったものをまとめていこうかなと思います。なんかあれば追記します。

 

【MUSIC】

 

・ David Bowie / Blackstar

Blackstar

Blackstar

 

 ダニー・マッキャスリン、マーク・ジュリアナら気鋭のジャズマンを迎えた「最終作」。印象に残るのは、従来以上にゴシックでダークな作風の楽曲と、全編通してせわしなく刻まれるジュリアナによる(打ち込みに聴こえるほど)インダストリアルなビート、あるいは楽器隊において前面に押し出されているダニー・マッキャスリンのサックスとベン・モンダーのギターだ。本作はジャズマンを迎えども、ボウイ風ジャズ・ボーカル・アルバムという単純な仕上がりにはなっていない。ダニー・マッキャスリンはボウイ・サウンドに必要な感傷的かつダイナミックな演奏という注文に応えており、ベン・モンダーのギターはこれまでになく直線的だ。マーク・ジュリアナがここ数年研究の限りを尽くしている音響的なシンバルの鳴りなどにジャズのイディオムを感じなくはないが、それをもってジャズ的だと特筆するほどではない。御年69歳の作品にしてはあまりにパワフルで、仰々しくも生々しい息遣いがこの作品にはある。

つまり、大物ミュージシャンがジャズ演奏者を作品に取り入れることが現代ポップスの流行だから採用したというわけではないし、ジャズとロックを融合するというお題目を掲げているわけでもない。作法はあくまでロックであり、デヴィッド・ボウイだ。だが、本作はマッキャスリンやジュリアナが試みる、ビート・ミュージックの肉体化と、エレクトロニカドラムンベースといった他ジャンルとジャズの越境と拡張に呼応している。そして「肉体的であること」「越境すること」は「喪われて形を亡くしたものがいかにして彼岸を越えて他者の前に蘇るのか」というアルバム全体に流れるテーマとも共鳴する。どうしようもなくその背中に死を惚けさせていると同時に、本作は死を乗り越えるほどの生をも具現化させようとしているのだ。ゴシックでインダストリアルな作風でありながら、本作から漂う生命力の源泉はおそらくそこにある。

その男が死んだ日、何かが起きた/

魂のバラが散る/

彼のいた場所で、誰かが泣いている

本作の真の意図がどこにあるのか、もはや作者の口から語られることはない。だが、続きは別の誰かに託された。例えば、現代ジャズの登場人物ではないにもかかわらず本作に召集された(さらに言うならば、当初はプロデューサーとして想定されていた)ジェームズ・マーフィーは今年、LCDサウンドシステムを再始動させる。そして盟友、トニー・ヴィスコンティはやはり現代ジャズの重要人物たるエスペランサ・スポルディングの最新作の指揮をとる。王が舞台を降りて劇は主役を失えど、今しばらく物語は続く。

 https://www.youtube.com/watch?v=kszLwBaC4Sw

 

 ・ METAFIVE / META

META

META

 

 高橋幸宏テイ・トウワ小山田圭吾砂原良徳、ゴンドウ・トモヒコ、LEO今井とそれぞれが破格の実績を誇る中堅〜ベテランが手を組んだ「スーパーグループ」。多くのメンバーが実直な仕事人というよりは強い作家性を武器にしており(その中でもLEO今井のギターはとりわけ強烈)、楽曲ごとに料理人の腕を存分に味わえる贅沢な作り。各々が各々で関わりを持つこともあり、スーパーグループながらコンビネーションに乱れはなく、一方でお互いの個性を活かす大人の余裕もある。年長の高橋幸宏から最年少の今井に至るまで、時代を超えてニューウェイヴやエレクトロといったルーツを共有していることを実感できるのがまた面白い。


METAFIVE - Luv U Tokio -Video Edit-

 

・Anderson.Paak / Malibu

MALIBU [国内仕様盤 / 帯・解説付き](ERECDJ218)

MALIBU [国内仕様盤 / 帯・解説付き](ERECDJ218)

 

ブラック・コリアンという背景を持ち、Dr.ドレ「コンプトン」にも参加したネオ・ソウル・シンガー/ドラム奏者の最新作。グラスパー&クリス・デイブ、マッドリブといったジャズ界隈からハイエイタス・カイヨーテといった飛び道具まで、2016年のブラック・ミュージック・コネクションの見本市を思わせるパーソネルながら散漫な印象はない。全体的な俯瞰能力はドラマーならではか。優雅というにはあまりに情感的だが、全体を通して豊饒な響き。十分に今年度の基準となる高品質な一枚。

www.youtube.com

 

・ 北村早樹子 / わたしのライオン

わたしのライオン

わたしのライオン

 

大阪出身、東京在住のピアノ弾き語りシンガーがバンド編成を迎えた意欲作。一部の楽曲では打ち込みを導入したこともあり、昭和サブカルポップスを踏襲するヒステリックな作風が一層強化。「本日の悲報」「ドクターvsクランケ」の序盤2曲は皮肉が効いているし、「卵のエチュード」のアレンジは普遍的なメロディに膨らみを与えている。だが、メロディとピアノの響きには愛着があれど、背景に漂う昭和サブカルの空気に共感できない身としてはこそばゆい。名作となるか迷作となるかは今後の活動次第か。

 

・入江陽 / SF

SF

SF

 

昨年度作も注目されたネオ・ソウル・シンガーの新作。バックトラックで無軌道に踊るエレクトロ・サウンドは同じネオ・ソウルでもミゲルやウィークエンドよりはハイエイタス・カイヨーテだが、入江陽はよりキッチュで露悪的。「たまご焼き」や「お引越し」といった言葉をエロティックかつシュールに乗せる気持ち良さは岡村靖幸の延長線上か。前作以上に異形。ネオ・ソウルとエレクトロをひとつなぎで繋ぐジャパニーズ・ポップの新たなる坩堝。

 

・王舟 / PICTURE

PICTURE

PICTURE

 

バンドサウンドの前作から一変、すべてを王舟ひとりで作り上げた宅録作。しかし、前作よりこじんまりとしているというわけではない。フォークやインディ・ロックという前作で披露した個性に、ソウル、ディスコ、エレクトロ、さらにはワールドミュージックのグルーヴが加わり一曲ごとの聴きごたえは大幅に増し、スケールも広がった。なかでも王舟流エレクトロソウルともいえる「Moebius」は格別!次作以降は本作を踏まえてのバンドサウンドを目指すことのことだが、これなら期待大。

 

・ Creepy Nuts / たりないふたり 

たりないふたり

たりないふたり

 

 「フリースタイル・ダンジョン」での活躍でTVの舞台でも注目されつつあるラッパー、R-指定とトラックメイカーのDJ松永によるユニットのEP。紋切り型のギャングスタ・ラップからは距離を置き、しかし、オリコンチャート的なポジティブ・ラップでもなく、一方でインディ・エリートにも染まりすぎず、そのすべてに対して皮肉と劣等感を表明するトリックスター。すべてに背を向けながらもキャッチーなキャラ立ちを担保するのはR-指定の突出した力量とDJ松永の洒脱なセンス。本格的なブレイクに向けたご挨拶の一枚だが、ニュースター誕生の確信。

 

・GoGo Penguin / Man Made Object

Man Made Object

Man Made Object

 

英国のピアノ・トリオの3作目にしてブルーノートデビュー作。人力でドラムンベースやエレクトロ・ビートを鳴らすというコンセプトは実に現代ジャズ的。だが、冷ややかな情感を感じさせるピアノとウッド・ベースの調べは辛口に引き締まっており、ピアノ・トリオのエモーショナルな魅力も存分に味わえる。前作から今作までに至るブレイクスルーのなかでビートはより強固に、メロディはより鮮明なものとなり、ポスト・ロックやエレクトロのヘビー・ユーザーにも届きそうな間口の広さ。「越境」と「拡張」という、必要条件を十分以上に満たした力作。

 

・DCNXTR / CONNECT

CONNEXT

CONNEXT

 

タイはバンコクのエレクトロ・デュオの日本流通作。Cut/Copyが登場した00年代中盤を思わせる極彩のスペーシー・エレクトロは現在のバンコク・シーンを代表するサウンドとのこと。EDMの洪水とヴェイパーウェイヴの酸性雨に飲み込まれる形で風化してしまったエレクトロの魅力がまだこの世に息づいていることを確信させるシネマティック・オリエント。一聴の価値あり。

 

【COMIC】

尾崎かおり / 人魚王子

人魚王子 (ウィングス・コミックス)

人魚王子 (ウィングス・コミックス)

 

尾崎かおりの最新中編集。女子中学生の思春期特有のフラジャイルなアイデンティティ。人魚を見れば願いが叶うという田舎町の伝承をめぐる冒険…。前作「神様がうそをつく。」同様に青少年の危うい機微と彼らに息づく瑞々しい生命力への祈りが本作にも継承されている。「それでも死ぬことはない」「どこまでもどこまでも生きていきなさいね」というメッセージに説得力と詩情を持たせる清涼感あふれる筆力!描くべきテーマを確信した作家ほど強いものはありません。

 

・盆ノ木至 / 吸血鬼すぐ死ぬ

・沼駿 / 左門くんはサモナ

吸血鬼すぐ死ぬ(1)(少年チャンピオン・コミックス)

吸血鬼すぐ死ぬ(1)(少年チャンピオン・コミックス)

 

 

左門くんはサモナー 1 (ジャンプコミックス)

左門くんはサモナー 1 (ジャンプコミックス)

 

洋モノファンタジーを現代社会に落とし込んで軽やかにコメディにする感覚というのが流行なんでしょうか。常にどこかで誰かがやってる作風(「アザゼルさん」とか「ラブやん」とか)ではあるけれど、両作ともにベタベタしすぎず、かといってドライにも露悪的にも振りすぎない人間関係が心地よいなと思いました。

 

・ 阿部共実 / 死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々 2

ニヤニヤさせられる短編が多くなり、読むほどに心が削られる「青春はジェノサイド」な初期の作風からすっかりと丸くなった印象もあるけれども、メッセージの質は作品を追うごとに上がり、今回はとりわけエモい。男子の友情にしては少しばかりエロティックな描写が多いキラキラとした「8304」、自意識が変な方向に転がった男の子とその恋人が「別れる」様を描いたモノクロームな「7759」の連作が秀逸。思春期の心の揺れや歪みを、その言語感覚をそのままに、痛み以外のやり方で描けるようになったのはおおいなる成長でしょう。そういえば「mouth to mouse」のころのsyrup16gってこんな感じだったよねえというのを思い出しました。