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音楽とコミックのレビューブログ

VIDEOTAPEMUSIC「世界各国の夜」

 

世界各国の夜

世界各国の夜

 

 

cero小島麻由美をはじめとした多くのアーティストのPVやライブ映像を手がけ、音楽家としても各地から中古のビデオテープをディグし、その中の音声をサンプリングしてサウンドとリズムを構築し、自身はピアニカを演奏。ライブでは編集したVHSの映像と同期させるという独特の音楽手法が話題を集める注目作家の2nd。ceroの荒内佑、beipana、MC.sirafu、思い出野郎Aチームのメンバー、さらには「あれよ星屑」で一躍注目を浴びた漫画家にして昭和歌謡デュオ・泪の片割れである山田参助らが参加。

その手法を一度頭から離して聴けば、本作は「世界各国の夜」というタイトルにふさわしく、洗練されたラテン・ジャズからチャイニーズポップスまで、香港からニューヨーク、ワイキキや南米を経て東京へと駆け巡るドリーミィな無国籍ラウンジミュージックである。ダンスミュージックとしての強度が高い冒頭3曲(いずれも傑作!)から作品が下るごとにリズムは背景に下がり、レトロなワールド風サウンドの波が押し寄せてくるのはチルウェイブ的だ。さらに、ところどころ挿入されるナレーションはどこかシュールで、時間や場所が溶け合う恍惚とした感覚に全身が包まれていく。その一方でアルバム終盤、そのタイトルの通り、真夜中のファミレスから見える景色と行き交う人々からインスパイアされたチルアウトトラック「RoyalHost(Boxseat)」は本作でもひときわ印象的だ。イマジネーションの中の架空の世界旅行から現実へと引き上げ、次の朝へと向かう清清しい愛しさに思わず胸が撃たれる。

 

2015年、東京 / 蘇る記憶 / 世界各国の夜

 

だが、彼の作品はその手法とどうしても切り離すことはできない。作品冒頭の印象的なナレーションからして、世界中の娼婦が日本にやってくる実態を追うという70年代のカルトなピンク映画からコラージュしているわけである。投げ売りされた中古ビデオをサンプリングして一枚の音楽作品に仕上げるというビデオテープミュージックの立場は実にポストモダンだが、80年代後期から90年代のポピュラーカルチャーの粉飾されたバブリーなゴージャスさへの逃避を悪意をもって非難するヴェイパーウェイヴのようにスカムな印象は決して与えない。むしろ本作の「時間」や「想像力」に対する態度は切実で真摯で、いっそのことサイエンス・フィクションにも思える。VHSの中に刻まれた、下世話で奇妙だが時にエモーショナルな架空のエロティシズムやエキゾチカから「かつてそこにあり、もはや同じように戻ることはないけれども、いまは形を変えてここに眠る」風景を呼び起こし、ロイヤルホストから眺める私鉄沿線の風景と接続する。それは例えば、過去と現在と未来を自由自在に跨いで、それぞれの時代の想像力が別の時代の想像力と繋がり、登場人物を駆動させる様を描いたウォシャウスキー姉弟による傑作映画「クラウド・アトラス」において、ペ・ドゥナ演じるアンドロイドの少女が旧人類の遺物である「映画」に心動かされ、繰り返し「ビデオ」を再生するシーンを思い浮かべる。一歩誤ればただの懐メロ、あるいは気の迷った退屈なレトリックになりかねない(そして正直なところ、今作ほどの音楽的魅力を欠いていた前作はその迷路に陥っていた)が、サウンド以上に手法が「過去」と直結する彼の作風は歯の浮いたロマンシズムに実態を与え、さらに現実逃避で終わるわけではなく、2015年の東京の夜の風景に戻るところまで誠実に描いてみせた。なんて、オリジナルな音楽だろう。

 

 


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