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音楽とコミックのレビューブログ

優「五時間目の戦争」

 

五時間目の戦争 (1) (カドカワコミックス・エース)

五時間目の戦争 (1) (カドカワコミックス・エース)

 

  

五時間目の戦争 (2) (カドカワコミックス・エース)
 

 

細田守監督の人気映画「おおかみこどもの雨と雪」のコミカライズを担当した作者による2014年から連載中の新作連載。

舞台は現代ではない日本のいつか。正体不明の敵との「戦争」が進行し、日本は危機を迎えていた。しかし戦火はとある離島の田舎のちいさな町の日常までは伸びず、陸上部の朔と、ちょっとどんくさいが料理が取り柄の優をはじめ、町に住む中学生たちは穏やかな日々を過ごしていた。そこに東京から疎開されてきた少女、零名が引っ越してくる。戦争の悲惨さを知る零名は町の暮らしに馴染めず孤立していくが、凛とした零名の姿に朔は興味を持ち、零名も軽やかに陸上のハードルを飛び越えていく朔の姿に目を引かれる。東京からの転校生が現れて以前とはすこしだけ違う日常。しかし、敵からの本土への上陸を受け、戦線が悪化する中、新学期になって離島の中学生たちも徴兵を宣告されることとなる。金曜日の五時間目、指名を受けた生徒は最前線へ駆りだされることになるのだが、体力自慢の朔と幼なじみの優だけはなぜか出兵不適格者となる。そして、兵士として最初に指名されたのは東京から疎開してきたはずの零名だった…。

 

いっそのこと/ 終わらせてしまえたら / どれだけ楽だろう

ほらまた / 君のために / 悲しい歌を歌っている

(ROTH BART BARON / 小さな巨人

 

姿の見えない巨大な敵、その巨大さに翻弄される少年少女、本来なら幼い彼らを守るべきはずの社会の形は曖昧な煙の中にまぎれて作品から消え去ってしまっている。あらすじを読めばすぐに「最終兵器彼女」のことを思い出すだろう。そう、本作は紛れもなく、15年前に流行したセカイ系のフォーマットを用いた作品だ。(個人的な肌感覚としては)youtube/ニコニコ動画の登場以降すっかりと途絶え姿を見なくなったセカイ系の再浮上である。しかし私たち(あるいはもっと限定するなれば、セカイ系の多くの作品で主役の座を与えられることとなる子どもたち)を取り巻く様相は15年前のそれとは少し異なっている。例えば、私たちはこれから戦争に駆り出されるのかもしれない。それは現実的ではないだろうか。次の大地震はいつ起こるかわからない。そのリアリティはなくなってきているのだろうか。ならば、少年は近所のお兄さんに河川敷で滅多刺しにされるかもしれない。少女はアイドルになりヘリウムガスを吸わされて危うく半身不随になるかもしれない。これらもまた現実の世界の出来事ではないのだろうか。戦争など起こらずとも、私たちはきっとすでに取り返しのつかない場所にいて、同時に「取り返しのつかない場所にきた」という不安は私たちが目を逸らして他の話を切り出す分だけ、子どもたちに降り掛かる。本作の(あるいは今年浮上したセカイ系なるものの)姿の見えない敵は私たちを取り巻く巨大な不安で、形のない社会の姿は不安から目を逸らす私たちだ。「おおかみこどもの雨と雪」はこの世から外れたみなしご同士が出会い、新たな営みを持つという穏やかな「希望」の物語だった。そんな「希望」の物語のコミカライズを務めた優という女性作家は柔らかな絵柄と女性特有のしなやかな視点をそのままに、本作では登場人物を容赦なく傷つける自らの筆に痛みを抱えながら、私たちを取り巻く巨大な「不安」と戦っている。それは新作の「バケモノの子」でも前作と同じようにコミュニケーションが生み出す「希望」の物語を描こうとした細田守とは対照的だ。しかし、不安から目を逸らす私たちはまだ営みが可能な生き物なのだろうか?

 

それでも君が笑うから / つられて僕も笑ったよ

アルミニウムの空の下 / ふたりどうやって生きようか

(ROTH BART BARN / アルミニウム)

 

15年前は少年は「世界」か「あの娘」をまな板の上に乗せられるくらいに選択や決断の余地があった。だが、今回は巨大な不安は選択や決断の余地もなく、昼ご飯のお弁当を囲む中学生たちの恋や友情といった幼いふれあいを容赦なく押しつぶしてくるように思えてならない。印象的なのは、本作の登場人物は人類の命運を左右する決戦兵器のような存在ではなく、各々が何ら特別ではないアドレッセンスであり、いち兵卒であることだろう。そのせいか本作は「自分は/あの娘は特別だ」という砂糖菓子のような甘さが抑えられ、ひとつひとつのシーンに痛みを引きずっている。戦いの中で傷ついた痛み。戦いの中で失っていく痛み。あるいは戦いもできず、見ていることしかできないものの痛み。セカイ系の調べはあのころと同じようにメランコリックで、その代わりに悲しみが終わるのか、終わらないのかすらわからないビターなものだ。それでも。

 

僕らに託された望みは / ぜんぶ叶えてやるもんか

こんな場所で生きてたくないし / こんな場所で死にたくはない

(ROTH BART BARON / 氷河期#2 Monster)

 

 


ROTH BART BARON / 氷河期#2(Monster) - YouTube