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lost&safe Blog

音楽とコミックのレビューブログ

あだち麗三郎「ぱぱぱぱ。」

2015 newdisc

 

ぱぱぱぱ。

ぱぱぱぱ。

 

 

東京インディーズ界隈にて片想いやceroなど数多くのバンドでメンバー、客演として参加してきたマルチ奏者のソロ3作目。

胸を締め付ける切ない慕情をもつ名曲「ベルリンブルー」をはじめ、前作までの彼の作品は本作と比べて決して質の面で見劣りするわけではない。それらは私たちの生活に丁寧に愛おしく寄り添う佳作であることは間違いない。しかし、表現のスケールの面においてこのアルバムは前作のみならず同世代の優れたバンドをも突き放す広がりに満ちあふれている。「星の生誕祭」という思わせぶりなタイトルのインストゥルメンタルのオープナーで幕を開き、彼の魅力である普遍的でキュートなメロディを挟みながら、フラミンゴが佇む湖(「フラミンゴが翔ぶところ」)、幽霊が揺れるアフリカの草原(「African Ghostz」)、一組の男女が生涯を過ごす小さな町(「大根島のうた」)とこの世のありとあらゆる風景を旅して、そこで暮らす人々の生き様を刻んでいく。そんな作風に応じて、本作はよりワールドミュージックやジャズの要素を強めている。特にトランペットとパーカッションが幽玄なシンフォニーを奏でる「African Ghostz」はベイルートやベッカ・スティーブンスあたりに肉薄する狂おしいオルタナティブな調べを持ち、本作の代表曲のひとつといえるだろう。そして、ハイライト「ぱぱぱぱ」に辿り着くとき、想像力は宇宙にまで広がる。

 

青と青の真ん中で / ボートに乗って波に乗ろう

燃え盛る家を捨てて / 瓦礫の中で踊ろう

 

本作でも特に意味深な歌詞が並ぶタイトルトラックは、恐らくはこの星のあらゆる営みを眺めてきた宇宙人が綴った恋人へのラブレターのように読み取れる。地に根を張り、朝を迎え、愛らしい誰かと出会い、眩い恋をして、やがて眠りにつく。そんな営みへの憧憬である。私があなたを愛するように、この宇宙の裏側でも誰かが誰かに恋をする。それは誰にとっても悪い気分になるものではないはずだ。うたは、そんな感情を形にする。隣にいる他者を、宇宙の裏側にいる誰かを想い、その想像力を形にすることができる。そう、作品に広がりがあるということは、あらゆる場所であらゆる生き方をする人々に対してリーチをもつということだ。東京都心の夜間電車に揺られる人々が窓の隙間から見上げる星と、アフリカの幽霊たちが見上げる星は、同じ場所で燃えている。そして、私たちが見上げる星も同じようになにかしらの営みを紡いでいるのかもしれない。そんな想像を繋ぐのが本作だ。

 

イメージの海に / 君と泳いで

 

あだちが手を広げながらトラックを歩く本作のジャケットには清涼感を覚える。その姿は、まるで羽をはためかせながら優雅に海を横断しているようである。この場所から次の場所へと。ここからどこかへと!愛の尊さと恋のきらめきを、溢れんばかりの「生」の息づかいを鞄に入れて、サイエンス・フィクションカート・ヴォネガットトマス・ピンチョン!)のエンジンを詰め込んだ音楽という名のロケットで、イメージというサルガッソーの海に帆をあげた一大叙事詩である。東京インディーズの影の立役者であり、偉大なる脇役だった彼は、あまねくリスナーを音楽で包み込む、誰にも増してオリジナルな存在になった。作家、あだち麗三郎にとって彼の評価を決定づける「祝福」のファンファーレだ。

ところで、同じようにあだち麗三郎もなにかしらに愛を込め、営みを紡いでいる。それがいったい何で、どのような形なのか。それはジャジーで穏やかなラストトラック「Harvest Mooon」に隠されている。答えを出してしまうのも野暮なので、ここから先は是非あなたに耳にしてほしい。ロマンチック!

 

 


あだち麗三郎 - Afrikan Ghostz - YouTube