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lost&safe Blog

音楽とコミックのレビューブログ

ムーズムズ「Flashing Magic」

2015 newdisc

 

Flashing Magic (仮)

Flashing Magic (仮)

 

 

京都の三人組ユニットによる、前進バンドを含めると足掛け16年目の初のアルバム。

わずか一ヶ月程度の間に、重要なリリースが相次いだ。量と質、ともに充実した重みのある新譜リストのなかで、1999年の出会いから、名義変更を経てからも10年以上もの間足踏みを続け、気づけば中年を迎えていた京都のしがないバンドマンたちが作り上げたこのアルバムは、おそらくほとんどの人が目もくれない、気にもとめない軽い一枚だったはずだ。結論を言おう。本作は急速なジャズ化を迎える世界のポピュラーミュージックの流れに適合し、そこに関西/京都のアンダーグラウンドに根付く実験精神を組み入れ、そのうえで先人たちが幾度となく試行と研究を重ねた末に生み出したジャパニーズポップスの系譜を受け継ぐ、本年度最高級の作品になった。

よたよたとしたヴォーカル、ベースを欠いたバンド構成、盛り上がりが不安定な楽曲、苦笑い必至の歌詞世界、これらは紛れもなくローファイ。しかし、脱力系だとだまされてはいけない。彼らはギター、キーボード、ドラムが生み出すバンドワゴンに常にストイックだ。そして、それらを感傷的なダンスミュージックとして、あるいは強靭なクラウトロックとして固めるのは、つねに琴線を責め立てるメランコリックなキーボードの反復フレーズなのである。神出鬼没に裏打ちするギターは、ちゃきちゃきと刻む小気味よいドラムは、パズルのように積み上げられたシュールな日本語の組み合わせは、キーボードの調べをサポートし、聴き手の全身に心地よく染み付かせる。そのリズムはロックバンドやファンクよりはフュージョンバンドのそれに近い。そう、はっぴぃえんどでもザ・フーでもニルヴァーナでもない。思いつく限りではリターン・トゥ・フォーエヴァーだろうか。それは10年以上もの地道な活動のなかで彼らが見つけた鉱脈であり、叩き上げた武器である。その魅力はリズミカルな曲よりも、むしろ美しいミドルバラードで生きる。「二階建ての電車」は平沢進を思わせるキッチュで悪夢的な歌詞、主張を控えながらサウンドに的確な広がりを与えるドラム、そしてキーボードの反復という彼らの魅力が詰め込まれた佳曲だ。丁寧なミニマリズムから混沌へと上昇する「スワワ」も見事なクラウトロックである。一方で「Abc」のようなうたごころのあるロックナンバーがあるのも作品に幅を与えている。そして、最終曲「ミグ」の終盤の美しいピアノの調べはアルバムを一枚通して聴いて味わってほしい。長い夜が明け、朝焼けを浴びるような充実感がある。

 

差し込む朝日が眩しくて / 昨日の僕とはちょっと違ってる

染みてく朝の中、残ってる / 君の匂いが残ってる

 

本作はサウンドの色が強いアルバムであり、必要以上に言葉に肩入れする作品ではない。しかし、アルバムのオープニングを飾る「Mirror Ball Flashing Magic」のみは特別だ。狂わしいほど切ないキーボードの反復と心臓の鼓動が鳴り続けているかのような性急なリズム。おそらくはヤマシタトモコの短編から拝借されたであろうこの楽曲の歌詞は、ダンスホールの一夜限りのロマンスが、ミラーボールに酔わされた気の迷いが、その吹いたら消えてしまうような頼りなさが、たとえ些細な変化だろうと人生を変えてしまうほどかけがえのないものであることを描いている。ミラーボールのきらめきは、あの娘のダンスは、気の迷いは、音楽の魔法は、それに触れたドキドキは10年過ぎても、20年を迎えてもたぶん解けない。それはなによりも、長い足踏みと旅路の果て、世界にただひとつ、彼らにしか作ることのできない作品と巡りあえた男たちならよくわかっているはずだ。なんとも夢のある話じゃないか。ミラーボール・フラッシング・マジック。いろんな意味で、マジックはある。魔法を信じるかい?

 

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