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音楽とコミックのレビューブログ

吉田ヨウヘイgroup「paradise lost ,it begins」

 

paradise lost, it begins

paradise lost, it begins

 

 

才人・吉田ヨウヘイを中心とした男女混成大所帯ユニットによる3rd。本作からTAMTAMのkuroがサポートメンバーとして参加している。

池袋西口のビル街を坂を下る方向に少し歩いて路地に入れば、すぐに住宅街になる。物干竿に吊るされた生乾きの洗濯物は、煌びやかな都市中心部に対して一定の距離を置く生々しい景色にみえるだろう。ビル街と住宅地を分ける路地。中心地と郊外を繋ぐ路線。「都市」から「生活圏」へと。タイトルにITや環境技術などを駆使した最先端の都市開発「スマートシティ」を持ち出した前作のソリッドな肌触りに比べて、今作にあるのはジャケットの夕焼けの住宅地の風景に見られる「生乾きの洗濯物」の傍らにある、泥臭く、しかしたおやかで重みのある表現力だ。

もとはダーティ・プロジェクターズにも例えられたトリッキーな編曲は今作では抑えられ、各パートがまとまりをみせるストレートなバンドワゴネスクに仕上がっている。フリーフォークの意匠からよりバンド演奏のダイナミズムを感じさせるアレンジへの移行は今作の最大の変化といえるだろう。その中で特に重要な役割を与えられているのがギターの西田修大とフルートの池田若菜だ。リズム隊を含めて全体的に柔らかな音作りのなかで、プログレッシブな西田の「泣き」のギターが特権的地位に押し出され、本作を大いに感傷的なものにしている。新世代のギターリーダーとしての素質は十分だろう。そして、楽器隊におけるメインボーカルともいえる池田のフルートのリズミカルで凛とした清涼感は前作以上に堂々たるものとなっており、吉田ヨウヘイgroupのサウンドを形作るための最大の武器にまで成長した。

終盤の三曲の充実感、特にラストを飾る「間違って欲しくない」で感傷の渦は最高潮にたどり着いてアルバムは綴じられる。単品で聴いても今年の年間ベストトラックのひとつに数えられるが、この曲のもつ意味合いはアルバム全体を通して聴いたときにずしりと響くはずだ。

 

ただ僕が知りたいのはひとつだけ / 君に近づいているかということだけ

 

本作のソングライティングにおけるメインテーマには「自己と他者」が置かれている。いや、飾らずに言おう。本作のメインテーマは早耳のリスナーが「時計の針を止める幼さ」として危機感をもって距離を置いたはずの「君と僕」である。だが、それは空想じみた夢物語でも、性愛にまつわるキッチュで生々しいものではない。多彩かつ慎重に重ねた日常描写のなかにまぎれた、清清しく、より実践的な親愛の情に満ちたものだ。本作の最後の3曲において、「君と僕」は「以前のように近い関係ではない」ことが示唆される。しかし、そこに苦みは感じられない。寂しさはあれど、本作の吉田ヨウヘイgroupは何よりも「あなたとの繋がり」が、出会いと別れという「人の営み」こそが町の灯になることを信じているのだ。曖昧なもののかたちを確かめにいく勇気。誰かと繋がりたいという想いの尊さと愛おしさ。穏やかで誠実な目線。都市の音楽ではなく、都市を生きるために必要な音楽。あなたに嘘をつかないために。抱えた想いを紛らわせないために。別の場所で生きる、バラバラになった私たちを繋ぐために。

 

でもあなたには / 間違ってほしくはない

 

吉田ヨウヘイgroupの難点として、吉田ヨウヘイ本人のボーカルの線の細さというのがたびたび挙げられる。しかし本作においては彼のボーカルの危うさこそが「繋がり」、「愛おしいものへの祈り」という今作の切実で繊細なテーマとマッチしている。本作はこれまで以上の結束力で編み上げられながら、なによりも吉田の「うた」なくしてあり得なかったのだ。自らが持てるもの、自分たちが出来ること。テーマを愚直に追い求め、その意味合いを確信し、壁を乗り越え、実を結ぶ。「あなた」に届く、真摯な一枚だ。

 

 


吉田ヨウヘイgroup - 間違って欲しくない - YouTube