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音楽とコミックのレビューブログ

三浦よし木 「僕の変な彼女」

 

週刊モーニング 2015年 5/28 号 [雑誌]

週刊モーニング 2015年 5/28 号 [雑誌]

 

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週刊モーニング2015年24号に掲載された読み切り。

自分をフった男性が結婚したことを知ったはらいせに描いた本作が新人賞の選考委員を務めた東山アキコに大絶賛されたことで各所で注目を集めている。

平凡なサラリーマン「大ちゃん」はトラック事故で急逝した元カノ「ゆり」の葬儀に参列する。少しばかり(にしてはずいぶんと)変だけれども、元気で明るく、可愛い女性。「大ちゃん」は彼女のことを思い、思わず涙する。その夜、悲しみに暮れながらも寝静まった彼は桜餅のような謎の物体に陰茎を擦られる。自らを「ゆり」と名乗る謎の物体は、「あなたのことが忘れられない」という無念で「股間のおばけ」となり、性的行為を求めてくる。だがしかし、その姿は桜餅。もはや肉体を重ねることも出来ないのに卑猥な好意を続ける「股間のおばけ」との生活。そうするうちに、「大ちゃん」は「ゆり」との日々を思い出していく。そして本作は甘い過去の恋とサイケデリックな現在の状況を行き来して、ある顛末へと向かっていくのだが…。

目に付くのは「ゆり」のキャラクターであろう。エキセントリックな言動のエロ女。主人公と作品を振り回す狂言回し的な役割でありながら、奇怪な言動は全て計算…というよりも背伸びだ。誰よりも普通で地味な自分が他の人より目を引くためには、「不思議ちゃん」にならなければならない。自分の理想を手に入れるためには、頭がおかしいふりをしなければならない。無理をしてでも、その無理が恋人にバれていてでも好きな人の好きな自分でなければならない。どんな形であれ、男性に対して可愛い自分を無償で演出するというすこしばかり男の側に都合のよすぎる設定で、ある一定の読者にとって違和感に繋がる余地があるのだが、ともかく、彼女の嘘はやがて男にとってストレスとなり、二人は離れていく。 その過程は荒さは感じさせるがキャッチーに笑えるものとなっており、一方で終盤における引きは感傷的なものに仕上がっている。

ところで、本当にイかれているのは彼のほうか、彼女のほうか、どちらなのだろうか。結論からいうと、女の子ではなく、それに振り回される男の子のほうに思えてならない。この物語は背伸びがずいぶんとヘタクソなかわいらしい女の子を、記憶の中の美しい彼女を、愛した女性を忘れることができない青年が生み出した、あるいは身勝手に捨てた疲れた恋の罪悪感を埋めるための安全装置のような妄想ではないか。ゆるかわいいといえば聞こえがいいが、とてもじゃないが性的な感情を抱くことが出来ない奇妙なクリーチャーのような姿は、恋を終わらせるために必要な安全弁だ。だとすると、この物語の終わりはよりナイーブだ。夢のなかでも、彼女と過ごした時間は清算されない。彼女がわけのわからない姿になっても、恋をしてしまう。物語の終わらせ方がわからず、言葉にすらならない。この物語は前述のとおり、恋人にフられた女性が、消化できない想いを吐き出すために描いた短編である。少なくとも、そのような設定である。私たちもまた、彼と同じようにないかしらの「おばけ」の呪いを背負って歩いているのではないだろうか。それが彼(あるいは作者である彼女)のように恋の場合もあるし、あるいは別の何かかもしれないが、その記憶がいとおしいほどに、どれだけ汚して茶化しても、瞼の奥で美しい姿を取り戻す。そして、忘却という目的地は遠くなっていく。彼(彼女)は消えたはずの「股間のおばけ」の呪いを背負って、折り合いをつけることもできずに歩き続けるしかない。

この物語は不思議ちゃんと彼に振り回される青年のエキセントリックで切ないラブコメディを主題にしながら、側面に誰もが抱えうるテーマを隠している。その普遍的な力がキャッチーな構成とエモーショナルな引きとの絶妙なトライアングルを生んでいるのだ。単に個性的で新感覚なだけではなく、様々な「読み」を内包する厚みのある作りになっているのは、青年向け雑誌の老舗の懐の深さであろう。そして、新人賞受賞作の読み切りでありながらネットを中心に幅広い関心を生む要因となった「キャッチーな計算」と「エモーショナルな引き」、そして「普遍的なテーマ性」のバランス感覚を保つことができれば、連載構想中という連載作は、「サブカル」というキャズムを超えて、多くの人の興味を惹く、魅力的なものとなるだろう。

 

 


スカート - おばけのピアノ @ 月刊ウォンブ! Vol.2 - YouTube

「おばけ」ということでこの曲を聴きながら読んでいました。マイおばけソング。