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lost&safe Blog

音楽とコミックのレビューブログ

かみぬまゆうたろう「となりのへやではきみがないている」

 

となりのへやではきみがないている

となりのへやではきみがないている

 

ヴィンテージのマーティンがトレードマークのシンガーソングライターによる2ndミニアルバム。

 

きみにバレなけりゃいいと思ってた / うまく嘘をつきゃ大丈夫だって思ってた

きみを傷つけることはしないと思ってた / 僕がきみのこと幸せにすると思ってた

 

口語体のなにげない日常描写を背景に生まれる感情の水たまり。かみぬまの楽曲は傍らにいる誰かの温もりをなによりも愛しく想う情念と、そんな誰かを突き放してしまう愚かさの両方を抱えている。自分をかたちづくるかけがえのないものと、それを傷つけたり、汚してしまうこと。本当に大切なものを知らず知らずのうちにないがしろにしてしまうこと。そのことにふと気付いたときに目を出すシニカルな怒りやペーソス。それでも誰かに寄り添い、肌を触れ合わせてしまう頼りなさと慈しみ。恋の歌に聞こえる7曲の朴訥な歌は、恋だけではなく、あらゆるなにかを想う感情に語りかけている。

サウンド面ではオープンリールでのアナログ録音による温かな肌触りがなによりも特徴的だ。弾き語りの楽曲においてはファーストインプレッションで受ける優しい印象だけではない、ざらざらとした感覚が耳に残る。その点においては「ハローグッバイ」における突き放したように吐き捨てられる「きみのせいだ」が強烈だ。一方、ゲスト参加のハンバート・ハンバート佐藤良成をはじめ、各パートにやり手を揃えたバンド演奏においては、久々に参加のSAKEROCKの新作でも重要な役まわりを演じた野村卓史のピアノが情感的だ。重みのあるアナログ録音のなかで、いつもより少しばかりムーディーで切ない野村のピアノはかみぬまの穏やかな作曲に淡い色合いを与え、瑞々しさを演出している。印象的なのは、初恋の嵐のカバー曲「真夏の夜の事」だろう。かみぬまの楽曲のように恋人たちの関係の一コマやその背景が聴き手の目に浮かび上がるような作りではないが、想いを抱えることそのものに心が引き裂かれ、その痛みに叫びださずにいられないような西山達郎、ないしは初恋の嵐の世界を、アナログの質感で見事に再現し、アルバムのハイライトとして見事に機能させている。

 

きみの傷口が / ふさがることはない

きみの傷口が / 僕を睨んでいる

 

このアルバムはささやかな出来事と本質的なものを、不安定に行き来している。そして、かみぬまの歌声はその不安定さを抱え、本音と建前、理想と現実の間にある迷路でもがいているようにみえる。だがしかし、例えどれだけ傷ついて、傷つけても、想うことをやめられない人たちのために、かみぬまゆうたろうの歌は流れていく。2作目にして、かみぬまゆうたろうの楽曲はおおいなる飛躍と広がりを手にしたといえるだろう。7曲とコンパクトだが、胸の奥のざらついた部分に沁みる味わい深い逸品だ。

 


かみぬまゆうたろう / ちいさな背中 -フィドルバージョン- - YouTube