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lost&safe Blog

音楽とコミックのレビューブログ

踊ってばかりの国「SONGS」

 

SONGS

SONGS

 

(当文章は、ototoy様主催の音楽ライター講座にて提出した文章の加筆修正版となります。規定文字数を大幅にオーバーし、さらに修正締め切りにも間に合わせなかったという、なんとも怠惰で申し訳ない文章です。供養もかねて、加筆修正版を掲載することにしましたが、クレームがありましたらすぐ削除します。まずはご挨拶まで…。)

 新メンバーを加えた復活作。

下津光史がなにげなくハバナ・エキゾチカの楽曲からバンド名を拝借してから、彼らは「踊ってばかりの国」という言葉が持つ意味の重みや使命感によくも悪くも引きずられてきた。この「踊ってばかり」の「国」という言葉には、「私たちはこのまま踊っていられる」という穏やかな幸福と「私たちは常になにかによって踊らされている」苛立ちと相反するアンビバレンツな響きがある。ビーチボーイズをはじめとした先人たちが作り上げたサイケデリックなポップスを踏襲したサウンドと独特な浮遊感をもつ下津のボーカライゼーションにおいては前者の幸福な感覚を思い起こさせるし、(特に2nd『世界が見える』以降においては)かつての関西フォークを連想させる日常の些細な苛立ちを表現する姿勢や震災以降を明確に意識さざるを得ない政治的なスタンスを込めた歌詞は後者に則っている。そのアンビバレンツさの極点までたどり着いたのが自らのバンド名を冠した前作『踊ってばかりの国』だった。「愛せなくなったこの国」への失望を歌ったオープナー「island song」にしても、そもそも「踊ることすらできなくなってしまう」という風営法に対する皮肉を込めた「踊ってはいけない国」にしても、そこにはひとりの男として、父親として震災以降の未来への不安や怒りを飾らずに吐き出す下津の言葉があった。

賛否両論、聴き手により真っ二つで、最終的な評価が保留されているように思える前作から一年。ニューアルバムである『SONGS』では前途の「私たちは踊らされている」というナイーブな感覚はみられない。手を伸ばせば届く範囲にささやかで、かつ幽玄に揺れる美しい愛の歌が並んでいる。前作がストレートなプロテストソングアルバムだとしたら、『SONGS』はおおらかで着飾らないラブソング集だといえる。そして、これらの楽曲はアルバムとして見事な噛み合いをみせており、これまでの作品のなかでも群を抜く完成度となっている。

だが、その一方で前作と今作の共通点を見逃してはならない。踊ってばかりの国が、彼らが引き受けたアンビバレンツな表現から目を背け、多幸感に逃避したという評価を下すのは早計だ。アルバムの終盤において終わりようのない争いが延々と続く中東の情勢を嘆くナンバーである「唄の命」が収録されている。それは前作において、政治的な空気から距離を置いたロックナンバーの「サイケデリアレディ」が異色ともいえる存在感を放っていたのと似ている。作品全体の主題は真逆に見えるが、前作と今作はアルバムの構造は変わっていないのだ。政治的なことを考えると、ふと個人的でとりとめのないことが頭をよぎる。同時に個人的なことを考えていると、ふと世界とつながってしまう。それは「わたし」と「世界」のつながりを絶やさないための祈りのように思えてならない。前作があるひとつの極点なのだとしたら、テーマは逆に聴こえども、同じ構造を持つ今作もまた、踊ってばかりの国が持つもうひとつの極点であるといえるだろう。

最後にアルバムのラストを飾る「ほんとごめんね」に言及しよう。今作において、それでも下津は徹底して、愛する人が傍にいる喜びを、その肌に触れられる慈しみを歌っていた。だが、この「ほんとごめんね」では、どれだけ歌を紡いでも、いや、うたを紡ぐほどに、愛する人が遠くに離れてしまうという悔恨が綴られている。

 

当然の報いだね 

 

過去の楽曲と一線を画すスケールとダイナミズムを持つロックサウンドと対照的に、「ほんとごめんね」の歌詞にはこれまでの彼らにあったサイケデリックな多幸感もフラストレーションもない。夢から覚めるような、踊り疲れて膝から倒れてしまったかのような錯覚を与える。彼らが愛し、日常のなかに溶け込み、生業としている「うた」という名前を与えられたアルバムは、歯がゆい苦みのなか閉じられるのだ。下津にとって「うた」というものが自らのアンビバレンツさと向き合い続けた果てに手に入れた世界への繋がりであり、さらにその先にあるのが報いなのだとしたら、少しばかり残酷すぎるように思えてならない。それでも、彼らは愛する人のために「音を止めないで待っている」と音楽を鳴らす。夜は続く。報いも、おなじように続いていく。

 


踊ってばかりの国『ほんとごめんね』PV(フルサイズ) - YouTube