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音楽とコミックのレビューブログ

(((さらうんど)))「See you, Blue」

 

See you, Blue

See you, Blue

 

 

鴨田潤率いるエレクトロ・ポップ・ユニットの3rdアルバム。マスタリングには砂原良徳が参加。

明らかにYMOを意識したおそろいの作業服に身を包んでいた姿を見ればわかるように、これまでの彼らはサウンドとヴィジュアル面においては80年代のテクノポップの、オシャレとダサさの紙一重をゆくハイソでトリックスターなセンスとジョークを意識的に継承していた。そんな80年代のエレクトロポップの享楽を模倣することは、「私たちの生きている場所にはもはやネオンサインもミラーボールもない荒野である」という切なさを浮上させる。しかし、(((さらうんど)))の煌びやかなサウンドのもとで紡がれる鴨田のリリックは、実は思いのほか同時代的な「君と僕」の距離感の物語であった。ここで言いたいのは「これまでの(((さらうんど)))はどちらに比重を置いていたのか」ということではない。重要なのは、古きよきテクノサウンドの継承と、同時代的なヒリヒリとした感覚を両義的に振る舞うバランス感覚が、メランコリックな方向にも無神経な方向にも振れない絶妙にポップでドライな(((さらうんど)))の作風に繋がっていたことである。だが、今作はそのバランスを大きく後者に寄せたアルバムに仕上がっている。

 

僕は泣きそうになったんだ / 僕は泣きそうになったんだ

僕は後悔を知ったんだ / 僕は後悔を知ったんだ

 

このアルバムにおいて、鴨田の歌はこれまでにない後ろめたさを惚けさせている。オープナーの「Silent Syrup」がそんな今作の空気を象徴しているといえるだろう。この曲における"あなた"とはなんのまじりっけのない「純粋」な存在ではなく、さまざまなものが折り重なった「添加物」なのである。そんな「あなた」が紡ぐ詩的で美しい愛の言葉も、「あなた」を強く抱きしめたいという想いも、「イかれている」と他人事のように思えてならないという自虐的な切なさがこの曲を包んでいる。このほかにも「偽者の恋の先には絶望がまっている」と囁く「To Fail To Fake」、シューゲイザーのようなエレクトロサウンドが懺悔の言葉を包む「Time Cupsule」と、アルバム全編を通して「この美しい一瞬はすぐに消えてなくなってしまうという諦感」、「手を離したがしまったために二度と手に入らなくなってしまったものへの感傷」がとぐろを巻くように絡み付いている。そんな鴨田の言葉に飲み込まれるように、序盤はエレクトロポップの体裁をとっていたサウンドも、アルバムが後半に進むにつれてもっと渾然と、混沌としたノイジーなものに変化していくのだ。前作までの几帳面なまでに纏め上げられたサウンドメイキングからは明らかに異質なものになっているといえるだろう。

 

僕らは理屈によって色気を奪われてしまった

 

これまでの(((さらうんど)))はテクノポップを演ずることに対して、批評的に距離を置き、バランスを取る事に腐心していた。しかし、今作ではそのバランスの糸を解いたのか、あるいは今はそうした態度が効果的ではないと判断したのか、あからさまに感情を剥き出しにしている。そして、それは子どもがだだをこねるような幼いものではない。そのドロドロとした感情の渦は、緻密に、綿密に、高い完成度と緊張感を持って私たちに迫ってくる。どれだけ言葉を投げかけても届かない。どれだけ近づいてもひとつになれない。あたかも、本作のリードトラックに選ばれた「Siren Syrup」のPVが象徴するかのように、私たちはいずれ遠ざかり呑み込まれてしまう。冬の海岸の端から端へ。遠く、遠く、真っ白な景色に。

 


(((さらうんど))) / Siren Syrup (Audio Video) - YouTube