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lost&safe Blog

音楽とコミックのレビューブログ

スカート「The First Waltz Award」

2015 newdisc

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澤部渡率いるスカートの初のワンマンライブを収録したライブアルバム。現在はココナッツ・ディスク吉祥寺店とライブ会場でしか購入できないのかな。しかし、少しばかり遠出して、中央線の電車に揺られてでもこのアルバムを探しにいくべきだ。このアルバムは、ザ・フーの「ライブ・アット・リーズ」のように、あるいはフィッシュマンズの「8月の現状」のように、スカートを代表する作品になりえる傑作である。

これまでの作品が決して物足りないわけではない。デビュー作の「エス・オー・エス」、3分間の中に物語と余韻を詰め込んだタイトルトラックが作品を引っ張る「ストーリー」、ロックンロールに強く接近した「ひみつ」、これまでにない濃密なアレンジでより高い完成度を目指した「サイダーの庭」……。それぞれに想いがこもっており、澤部の音楽哲学とその時々で目指したことを詰め込んでいる。さらにそれだけでなく、彼は尽きぬバイタリティであらゆるライブ会場で手作りの新曲を販売し、同人誌即売会にも足を運び、その度に新たなCD-Rを作り上げている。そんな根っからのソングライティング・フリークな澤部の楽曲の間口の広さは底知れない。例えば彼の楽曲は戦後間もないブラックミュージックから語ることが出来るし、あるいはスピッツから語ることもできる。彼の曲の見事なところは、われわれの記憶の中の美しいポップスのいずれかにアクセスし、心のどこかに住み着き、離れないということだ。あらゆるポップスの心に残る部分を咀嚼し、取り入れることに関しては澤部は数あるソングライターのなかでもずば抜けた能力を持っているといえるだろう。

本作はそれらを集約し、ライブという形でひとつの作品に仕上げた。不安定だったライブ演奏はすっかり息が合い、安定している。この熱量は録音にも負けていない。いや、録音を越えている瞬間があるからこそ、この作品は素晴らしいのである。特にリズム隊は素晴らしい。心が躍るほどパワフルで個性的な演奏をする佐久間のドラムは、しかし一方でスカートにおいてはときに走り気味なところがあったが、本作では彼の持ち味である熱情をそのままに、きっちりと楽曲を支える立場に回っている。また、ベースの清水はリズムを刻むには穏やかすぎるところがあったが、現在のスカートにおいてはその穏やかさこそが魅力の一つになっている。幅広い時期の楽曲を纏めながらもアルバムとして違和感がなく聴こえるのは、今のスカートのメンバーだからこそ出来る成熟したバンドワゴンを魅せることに成功したからに他ならない。

 

「ほら / 僕は間違ったまま / 光を見つける」

「冷たいその指に触れたら / いくつもの帰り道を照らす道しるべになるのに 」

 

ワンマンライブの録音作品ながらも、このアルバムはこれまでのスカートの集大成ともいえる作品である。印象的な瞬間はいくつもあるが、象徴的といえるのは彼の最古の楽曲のひとつ(当時10代!)である「月の器」と最新の楽曲である「シリウス」がセットリストに組み込まれていることだろう。飢餓のように危うく擦り切れそうな印象を与える少年期の「月の器」から、夜の凪のように穏やかな名曲「シリウス」へ。時期を重ねるにつれ、歌詞は刹那的で激しいものから、切なく情緒的なものになるし、サウンドも日本語ロック的なものからより広い意味でポップスになっているが、彼が常にどこか「光」なるものを求めているのは変わらない。町の光、星の光、あるいは愛する誰かという光。それはここではないどこかへの道を照らすための光であり、自らを連れ出すための光だ。暗い部屋から、その光はどこまで続いただろうか。そしてどこに続くのだろうか。澤部渡はギターを持ったときから、そのギターで生きる道を選んだ今に至るまで、常にそれを捜し求めている。本作はそんな澤部渡という男の、ライブアルバムという形をとったセルフ・ポートレートである。そして、これこそが重要なのだが、そのポートレイトとは、最初に述べたとおり、誰の心にもすみかを構えているポピュラー・ミュージックなのである。だからこそ、このアルバムに、光を求め続ける澤部の姿に、その愛おしい音楽に、こんなにも心を動かされるのだ。

 


スカート - サイダーの庭(from "The First Waltz Award") - YouTube