読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

lost&safe Blog

音楽とコミックのレビューブログ

疋田哲也+NIL「Ferry」

2015 newdisc

 

Ferry

Ferry

 

 

ともに00年代後半から各々で活動を続けてきた、北海道出身の2人組エレクトロユニットの2nd。流通版は初?

鳥の声や環境音がサンプリングされたオープナーの「Bud」や「Crop」、さらに続く「Mist」を聴けば、サウンドの軸足は(すっかりと「古きよきもの」という認識になりつつある)フォークトロニカの影響下にあると感じるだろう。しかし、本作の白眉はデトロイトテクノの宇宙的な肌感覚を持つ5曲目の「Water Wheel」だ。そのロマンティックな展開とリズムはGalaxy 2 Galaxyの名曲「Journy Of The Dragon」を思い起こさせる。このほかにも、ある曲ではタンジェリンドリームのアンビエントな奥行きを感じさせるし、また、ある曲ではボーカルチョップまで飛び出してくる。全体的な肌触りだけで俯瞰すると、あくまでエイフェックスツイン以後のエレクトロニカであることは間違いないのだが、ひとつひとつのサウンドに深く耳を澄ませると、このアルバムはもっと多彩な語彙で語りかける。

そう、このアルバムは美しいメロディと刻まれるビートを主体とする、「昔ながらの」「聴き慣れた」エレクトロサウンドである。ひとつひとつのアレンジは必要以上に感傷的にデコレーションされているわけでもなく、現実から離れて夢に沈んでいくわけでもない。かといって、実験精神の名の下に聴き手を置いていくこともなく、享楽的でアゲなメロディが連打されるわけでもない。あるいはこのアルバムを環境音楽とするには、思わず耳を引いてしまう引力がある。しかし本作はこれらのどの立場に立つわけでもなく、それぞれのエッセンスを吸い出し、ブレンドしている。確かにそこに目新しさはないのだけれども、我々が胸を焦がしてきた電子音楽なるものの魅力を丁寧に詰め込んだ、高純度な作品に仕上がっているといえるだろう。

 


Tetsuya Hikita+NIL "Water Wheel" Music Video ...