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lost&safe Blog

音楽とコミックのレビューブログ

若林稔弥「徒然チルドレン」

2014 2015 comic

 

徒然チルドレン(1) (講談社コミックス)

徒然チルドレン(1) (講談社コミックス)

 

 

 

徒然チルドレン(2) (講談社コミックス)

徒然チルドレン(2) (講談社コミックス)

 

 

数年来に渡ってpixivで投稿された作品や雑誌で掲載された作品を纏めた学園ラブコメオムニバス4コマ。2014年単行本化。

誰かと誰かが恋に落ちる。その誰かの友だちは別の誰かと恋に落ちる。その誰かの友だちはまた誰かと恋に落ちる。ではその誰かの部活の先輩は?様々な登場人物がそれぞれに恋をする恋愛短編集である。

各々の作品は4コマだけあって会話のひとつひとつが簡潔にまとまっていて非常に小気味よい。女子の想いが空回る告白シーンからスタートし、男の子をもてあそぶ小悪魔な女の子、クラスメイトのクールな女の子に恋する男の子、担任の先生に恋する女の子、気持ちがすれ違う幼馴染のふたり、病んじゃうくらいあなたが好き!な女の子、ウザいテンションが癖になる王子風の先輩と彼をとりまく女の子たちの交流、卒業する天文部の先輩に恋する女の子と十人十色の恋模様が万華鏡のようにリズミカルに展開する。

特に面白いと感じたのは、「好き」ではなく「寿司」という謎のコミュニケーションで幻惑してくる留学生の女の子と彼女に振り回される男の子のやりとり、本当はロックが大好きだけど気持ちを隠して軽音部にクレームをつける茶道部の女の子のエピソード。ディスコミュニケーションが一番面白くて可愛らしいというのはラブコメの王道ともいえるだろう。

ここまででレビューしたエピソードのそれぞれがとてもウェルメイドでお見事だが、この作品をさらに面白くしているのは時間という縦の軸と人間関係という横の軸が生み出す奥行きだ。

3年間の高校時代。季節の流れも12回しか巡らない。気になる男の子の横顔を見ていると彼が少し背が伸びたことに気付くこともあるだろうし、好きな女の子が夏服になるとドキリとしたりするだろう。あるいは後輩として先輩の卒業を見届けた女の子は、数ヵ月後には自分が先輩として後輩を迎えることとなる。そして、例えば今度はその後輩が先輩のことを好きになったら……?なんてこともある。このように時系列順に彼らの学園生活を追っていると、彼らの関係の変化や表情豊かに揺れ動く感情の機微に対してどこか保護者のような暖かい目線になっていることに気付くだろう。

また、ある作品の登場人物は別の作品の登場人物と友人関係だったりもする。同じ部活の仲間だったり、生徒会のメンバーでもある。あの子が好きな男の子は実は別の女の子が好きなんだぜ。これらの繋がりは書下ろしのおまけや雑誌に連載された作品もあることから、ネットに公開された作品だけだとその全貌はつかめない。こうした横のつながりの面白みを追っていくのも、読者という神の目線の特権である。

このように縦と横のつながりが原作を読み進めていくごとに頭の中でタグ付けされて深まっていくというのはここ10年のインターネット、特にニコニコ動画以降の肌感覚だ。日本のインターネットは現状を省みるに、なにもかもが幸福なかたちには着地できなかったけれども、ここでは上手く結実していて安心感を覚える。省みる余地はまだまだあるということだろう。

話を戻そう。部活に打ち込む青春。喧嘩に明け暮れる不良たち。彼らが10代という時間にほとばしるエナジーを燃やすように、恋というものは高校生活を色鮮やかに輝かせる。コメディタッチの作風ながら、なにより作者自身が若さを弄んで泣いて笑って恋をする高校生たちの魅力に憑りつかれ、彼らの生きる世界とその日常を描きたいと全身全霊を込めているのは後書きの熱量を見ればわかるだろう。読むのがちょっと大変なくらい長いあとがきは、決して特別なことは書いていないのだが、だからこそ良い意味で気取らない不器用さが伝わってきて好感が持てる。

どこかで誰かと誰かが恋に落ちる風景を見に行きたい。そんなおせっかいな読者にお奨めな、キュートなラブコメディだ。