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音楽とコミックのレビューブログ

新垣隆/吉田隆一「N/Y」

 

N/Y

N/Y

 

 

現代音楽家の新垣隆とフリージャズ奏者の吉田隆一のコンビによる記念すべき初アルバム。新垣隆にとってはこれが初CD音源かしら?

現代音楽とフリージャズのコラボレーションなのだから、それはそれは難解なものになると思いきや、眉をひそめる小難しさと身体が踊る楽しさの間でバランスを取った秀作に仕上がっている。新垣隆のピアノからは、ポストクラシカルを輸入してもリチャード・クレイダーマン経由になる日本のピアノ演奏の、いわば氷菓子に生クリームを乗せるような胸焼けする感覚はない。クールで、ミステリアスで、端整で、おもわず惹きつけられてしまう魔性がある。一方の吉田隆一のバリトンサックスはおおらかで、フリーキーで、パワフルだ。違う楽器を持ち、違う個性を持つ2人の演奏者による音は、どの楽曲でも徐々に結ばれ、やがて高まり、最高潮を迎えたところではじけて終わる。

面白いのは、おそらく主旋律を担当するピアノの新垣が担当する曲がマイナー調だったり、カオティックな展開を見せて(彼が作曲した「秋刀魚」はこのアルバムのなかでも特に難解である)、その周りを舞踏するかのように自由に踊る吉田が主導権をとった曲のほうが聴きやすいところか。それは互いの音楽家としての特色や魅力を理解したうえで、それぞれが活きる方向性を演奏の中で見つけていったということなのだろう。それ故にポップな展開だとは言いがたいアレンジの中にも、終始リラックスした感覚が伺えるのがこの作品の魅力だ。現代音楽の批評性やフリージャズの緊張感、異種格闘技戦のヒリヒリとした空気が好きな聴き手には少し面白みがないかもしれないが…。

などと言っているうちに、武満徹のカバー曲でアルバムは終わりに差し掛かる。その最後の瞬間、新垣隆のピアノで唐突にアルバムは閉じられる。終始リラックスした空気に包まれたアルバムが、その瞬間だけモヤモヤした異様な空気に包まれるのがどうにもニクい。その一筋縄でのいかなさに思わず苦笑いして、最後のアレはなんなんだ?と再生ボタンを押してしまう。そして気持ちよさそうに鳴らされる新垣のピアノと吉田のサックスの伸びやかな絡み合いに再度、耳と頭を沈ませるのである。こちらとしてはジャズも現代音楽もさっぱりな門外漢だが、暫くは付き合えそうな好盤だ。

 

 


Making of 『N/Y』 新垣隆/吉田隆一 - YouTube