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音楽とコミックのレビューブログ

田島列島「子供はわかってあげない」

 

子供はわかってあげない(上) (モーニング KC)

子供はわかってあげない(上) (モーニング KC)

 

 

 

子供はわかってあげない(下) (モーニング KC)

子供はわかってあげない(下) (モーニング KC)

 

 

田島列島の初長編。2014年作。

アニメ好きで水泳部員の朔田さんは高校二年生の女の子。大会に向けて練習中の朔田さんは屋上で人気アニメ「魔法左官少女KOTEKO」のイラストを描く書道部の少年、門司くん(文字が上手い!すごい!)と出会い、意気投合する。

そんな朔田さんだけれども、彼女の育ちは少し複雑。彼女の今の父親は継父で、実の父親は別にいる。継父と母親との生活は幸せで、両親からは深く愛されている。新しく出来た弟はとてもよく懐いて可愛いざかりだ。その証拠に、門司くんから見て朔田さんはとてもまっすぐな女性に育っている。しかし、朔田さんのもとには、実の父親から毎年謎のお札が送られてきて、そのことが心のしこりになっている。

一方の門司くん。門司くんには兄がいるのだが、姿や口調は女性。つまるところ、トランスジェンダーである。門司くんの兄は小さな商店街で古書店を営む理解あるマスターにお世話になりながら、ラーメン屋のメニュー書きやペット探しなどを引き受けるしがない探偵業を営んでいる。

そのことを知った朔田さん。決して短くはない年月を重ねて思い残しとなった父のことを知りたいと、門司くんの兄に父を探して欲しいという依頼をする。しがない探偵のお兄さんだけれども、真剣に依頼をする朔田さんの人となりを気に入ったのか、彼女が持ってきたお札と父の苗字である「藁谷」という名前を手がかりに、父探しの依頼を引き受けることとなる。

一方そのころ、門司くんの兄のもとに別の依頼が訪れる。現れたのは「光の教団」を名乗るスーツの男たち。彼らが持ちかけたのは「教団の金を持ち逃げして失踪した教祖、光海氏を探して欲しい」という依頼。そして、その教祖の本名は「藁谷友充」という…。

これがおおまかなあらすじ。これだけだと緊迫したサスペンスにミスリードするかもしれないが、実際はデフォルメされた淡いタッチとキュートなキャラクターたちが織り成す、少年少女のひと夏の冒険であり、彼らが体験するひと夏の非日常である。朔田さんの父親にはこのあらすじの後にすぐに会える。彼が持っている秘密も、なぜ家族を捨てて教団に参加したのかも、ほどなく明かされる。教団の金を持ち逃げした犯人も、下巻の中盤を差し掛かったあたりであまりにもあっさりと判明する。

それは人類の存亡にかかわったり、社会のあり方に影響を与えるものではなく、それらはドラマチックだけれどもささやかに朔田さんと門司くんのひと夏の冒険のエピソードとして流れるように通り過ぎていく。その途中で2人は同じように人生の冒険をして、その先に愛する誰かを見つけたり、まだ戸惑いの中にいる大人たちと出会う。そして、まだ人生の入り口にたったばかりのエネルギッシュで輝きに満ち溢れた幼子たちと戯れる。自分の血の半分が通った弟、父の下宿先で出会う女の子、彼らの幼子らしいおばかさと無邪気さはこの作品において特別に愛らしい色彩を放っている。その存在が、大人でも子どもでもない年代に差し掛かかりつつある朔田さんと門司くんのアンビバレンツさを引き立てている。

 

「あなたとのつながりが、世界のどこかとつながっていたい」

 

最終話であまりにも自然に、あまりにもさらりと出てくるこの台詞がこの作品の根幹をなしている。そして、それはいかんともしがたく追い立てる現実にたいして立ち向かうための些細な祈りとして(本当にさらりと)放たれる。どこか唐突で、不器用にも思えるほどだ。

誰かと誰かが出会う。その誰かを理解し、「わかってあげる」。この物語はそうしたコミュニケーションの連鎖を繰り返す。「子供はわかってあげない」という作品は、「わかってあげない」場所から踏み出し、「誰かと少しでも分かり合う」ための「つながり」の物語なのである。そして、彼が言うところの世界というものがあるとすれば、それはそうした誰かを「わかってあげる」という勇気や祈りや赦しが生む「つながり」の連なりで為すのだろう。それはあたかも朔田さんと門司くんが通り抜けた高校二年の夏の物語の登場人物たちのように。

さて、ひとつだけネタバレをしよう。物語の終わりに、門司くんは朔田さんのボーイフレンドになり、朔田さんは門司くんのガールフレンドになる。「他者と分かり合う」という「つながり」の物語は、キラキラとした恋のスタートラインで幕を閉じるのだ。彼らのひと夏の冒険のゴールとして、これほどワクワクとするものは確かにないだろう。そして、この恋はきっと、この物語と同じように彼らにとってかけがえのない「つながり」となるはずだ。